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いつだって僕は、双子の兄の影だった。
それはまず、名前から物語っている。
僕──新井螢は小さくため息を吐いて、兄である昴を見つめた。
同じ髪色に同じ瞳。顔の作りまで一緒だというのに、一体僕とあいつにはなぜこんなにも大きな差があるのだろう?
そんな無意味な疑問を溜息に乗せて流した僕は、今日も絶好調の昴を横目で眺めた。
「螢ぅー!……あれ……部活行かないの?」
花の高校2年生の始業式から1ヶ月、本日最後のチャイムが鳴ると同時にそそくさと荷物をまとめた昴は、肩掛けカバンとギターが入った大きいケースを肩に掛けて僕に振り返る。
「……うん、ちょっと今日は体調悪いから休む」
嘘だ。
なんなら絶好調の健康体で、今朝の星座占いだって1位である。分かりやすい嘘がバレないように、僕はくるりと踵を返した。
しかし鈍感な昴は全く気付くことなく、「大丈夫か?……んじゃあ、気を付けて帰れよ」と心配そうに笑いながら昴は僕と真逆の方向へと歩き出す。
──人の気も知らないで、さ。
苦々しいくらい弾むあいつの足音が遠のくのを感じながら、僕はもう一度振り返って昴の背中が小さくなるまで見届けた。
そのまま静かに校舎を出た僕はグルグルと無駄に街中を歩きながら、小さい頃から昴と比べられていた事を思い出す。
子供の頃から愛想が良くて、なんでもできる昴は人気者だった。
いつも人に囲まれて、双子である筈なのにどこか他人のように遠く感じている僕は、子供の時分からその差を思い知らされる。
小学校ではクラスの委員長や野球部の部長を務め、終始帰宅部であった僕には無縁の華々しい経歴を持つ。
中学では中間・期末テスト共にトップ5を譲った事がない。そのうえ人望厚く生徒会長に就任し、運動会では花形である応援団長に推薦された。その時に運動音痴の僕がどれ程の屈辱を味わったかなんて、あいつは知る由もない。
そして高校……本来ならば別の高校に通いたいところではあるが、『親孝行』という名目に縛られ、僕はイヤイヤ家族の意向に従わざるを得なかった。
──本っ当、ろくなことないよなぁ。
クラスメイトに「昴の補欠」とまで馬鹿にされていた僕は、憂鬱な空をただ見上げた。
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