から、から、から。

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 ***  簡単に説明すると、私は現在フリーターで、一人暮らしをしている。  大学在学中の就職活動で失敗し、まともな内定を貰うことができなかったため、現在正社員登用を目指しつつコンビニでバイトをして暮らしているというわけだ。  うちにはあと二人、弟と妹がいる。二人の学費も考えるなら、田舎の両親に迷惑はかけられない。  一刻も早く良い企業に就職し、実家に仕送りができるようにしたい。可能なら、その過程で彼氏の一人でもできれば万々歳だ。コンビニにもイケメンのバイトくんはいるが、いかんせんイケメンというものはタダで落ちているものではないのである。ばっちり彼女がいて、まったく私はお呼びではないのだった。 ――とりあえず、英検くらい取らないとダメかな。  その日も私は、出勤前に朝食を作っていた。私の朝のメニューはその日によって代わる。今日は少し時間に余裕があったので、目玉焼きとベーコンを焼いて、白ご飯と一緒に食べるようと決めたのだった。  炊飯器にご飯は一合炊いてある。朝だけで食べきれないだろうが、残ったご飯はラップでくるんで冷凍してしまえばいい。凍らせておけば、長くとっておけるし、足らない時にレンジでチンするだけで食べられる。実は冷蔵するより、冷凍した方が美味しく食べられるらしい、なんていうことを前にテレビ番組でやっていた気がする。  一人分の目玉焼きを焼くだけなら、小さなフライパンで充分だ。  というか、一応大きなフライパンも購入したのだが、一人暮らしで誰かを招くようなこともなかったため、結局棚にしまわれたままになっていた。目玉焼きとベーコンだって、一人分焼くだけなら小さなフライパンで充分だった。  まず、油を敷いたフライパンで薄切りのベーコンを焼く。邪道と言いたければ言え、私はちょっと焦げるくらいまで焼くのが大好きだった。あのカリカリっぷりがたまらない。家族にはよく“炭寸前まで焼くのはやりすぎでしょ!?”とツッコまれていたが。  ベーコンを焼いたら、残った油で目玉焼きを作る。大好物のこげこげベーコンを皿に退避させ、冷蔵庫から卵を一つ取り出す。私は母からの教えもあって、けして直接フライパンの上で卵を割ったりしない。殻が混じってしまった時、取り除くのが面倒であるからだ。おわんの中に卵を割る。ふんわりした山吹色の黄身が実に美味しそうだ。今日は破片が混じることもなく綺麗に割れたな、と満足しつつ卵の殻をゴミ箱に捨てようとした時である。 「ん?」  私は手に持った殻に違和感を感じて、立ち止まったのだった。  卵の殻は、外側は白くてちょっとざらざらしている。しかし、殻の内側をきちんと観察したことは、今まで一度もなかったように思う。精々やることと言えば、白身が綺麗に落ちますようにというお祈りくらいだ。  だから気づかなかった。 ――へえ、殻の内側ってこんなんになってるの?  殻の内側に、円くて黒いシミのようなものがあった。大きさは、私の小指の先程度。今までこんなもの見たことがないなと思ったが、そもそもまじまじと観察したこともない。黄身が収まっていた痕だとかで、こういう風になっているのは珍しいことではないのかもしれなかった。  念のためおわんの中の黄身と白身も確認したが、特にこちらは黒いシミがあるなんてことはない。  なんだろうな、これ。私が抱いた感想はその程度だった。 ――何かおもしろ。ま、美味しく食べられればなんでもいいんだけどさ。  私はそのまま殻を捨てると、熱したフライパンにお椀の中に卵をひっくり返した。じゅうじゅうと焼ける卵。少し固まってきたところで周囲に水を投入し、蓋を閉めて蒸し焼きにする。  目玉焼き、ベーコン、白ご飯。これで、朝のご馳走は完成だ。 「いっただっきまあす!」  私は幸せな気持ちいっぱいで、目玉焼きに食いついたのだった。少し塩を振っただけの目玉焼きは、今日もいつも通り最高に美味しかったのだった。
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