ジョセフィーヌは生まれない

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 ***  生まれ持った私の美貌と話術、ベッドの上でのテクにかかれば、男を落とすことなどわけのないことだった。  実のところ、私は仕事なんかしていない。働く必要なんかないほど、男たちがさまざまなものを貢いでくれるからだ。  今住んでいるマンションも、何十人目かの彼氏が買ってくれたものだし、服もバッグも様々な彼氏たちが私に貢いでくれたものである。彼らからの貢ぎ物を売れば、生活費に困ることなんかない。というか、普通に現金をくれる男も何人かいるのは事実だ。 『そういえば、この間の投資って、うまくいったのか?慈善事業なんてすごいな、本当に尊敬するよ』  自宅のエレベーターの中でスマホをいじる。LINEにメッセージを送ってきたのはマサヨシという男だった。彼は現役の医者である。事業の為の資金が欲しいと言ったら、あっさりと三百万円を投資してくれた。私が起業家でもなんでもない、なんてことなど全く知らずに。 『問題ないわ。まだ、土地の交渉を進めている段階だけどね。また進展があったら伝えるわね』  そんな返信をしながら、私は愉快になって呟く。 「ばーか。もうすぐ死ぬジジイババアのために、私が老人ホームなんて建てるわけないじゃないの。誰がせっかくのお金を溝川に捨てるもんですか」  この世の中、頭が良くて美しい人間のために回っているようなものだ。くだらないお人よし、おつむの足らないぼっちゃん、若い女に骨抜きにされるジジイ。彼らはみんな、自分のような人間の踏み台にされるために存在していると言っても過言ではない。  まあ、彼らもデートやらベッドの中やらでそれなりにいい思いをさせてやっているのだし、そのための必要経費だと思ってほしいものだ。いや、報酬と言った方がただしいか。そう、自分達は男たちを楽しませて、男たちの理想のカノジョを演じて正当なお金を貰っているに過ぎないのである。彼らも騙されて本望だろう。何も、自分は結婚詐欺師ではない。将来結婚してあげますなんて誰にも約束していないのだから、犯罪になんてならないだろう。 「あはは。いい気味……」  しかし。私の極楽気分はここまでだった。エレベーターを降りた途端、私は黒服の男たちに囲まれることになるのである。  オートロックのマンションなのに、一体どうやって中に入ったのか。こいつらは何なのか。疑問はいくらでも沸き起こったが、答えを見つけることはできなかった。  それよりも前に、私の意識は遠ざかっていったのだから。
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