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左側にはウガイが出来るようになっている。うん。
反対側はチェアから伸びたテーブルがある。うん。
そこには世にも恐ろしい銀色の器具が沢山のっている。うえ。
僕は食い入るように名前もわからない、冷たく鋭い針や小さな瓶を見続けていた。
小さい頃から怖いものから、目を逸らす方が怖かった。
ガガガと音をたてて、キャスター付きのスツールに乗ったまま移動してきた男が頭の横で止まる。
「はーい、おまたせしました。田辺さん?」
声をかけられてそちらを横目で見る。
「あ、お、お願いします」三十代? いや二十代かな? なんとも印象的な二重の大きな目がギョロリとこちらを向く。
「今日はどうしまし……ああ、これは酷い」心なしか小馬鹿にしたような笑い声と共に僕の腫れあがった頬を見ている。
「……あ」言いかけて遮られる。医者はミラーを手に持って待ち構えている。
半ば無理に口を開け、すでに涙目になっている僕に「はあい、そのまま口を大きく開けててくださいね、うわあ、かわいそうに」と言った。
マスク越しにもニヤニヤしているのがわかり僕は段々腹が立ってきた。
初めて来た歯医者だったが、ここじゃない所に変えてやる! 絶対。
「レントゲン撮影しますね」
「……レントゲン」いちいち喉が渇き、唾をのみこむ。
「こちらへ来てください」医者はのっそりと立ち上がる。
僕も後に続くため、ゆっくりと起き上がりチェアから降りた。
クマの様に高い背で、顔と同じくらい存在感のある体つきだ。
太っている、という訳ではないのに全体的にガッチリと重そうだ。
骨格からして丈夫そうな医者は、僕がすっぽり中に入って操作できそうなマシンのようだ。
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