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小さい部屋の中に入り、重たい前掛けを着けられこちらにおかけくださいと壁の近くに用意された丸椅子を示された。
大人しくそこに座り、キョロキョロと見回す。
やはり怖い時は敵を知らねばいけない。
近くにスポットライトのような筒状の機械がこっちを向いている。
これでレントゲンを撮るのだろうなと想像が出来てほんの少しだけ安心する。
「なんです? それは」
よくわらない白い物を手に医者が近づいてくる。
「インジケーターです」
「インジ……それ……どう使うんです?」嫌な予感がして心臓がドキドキと騒ぎ出す。
「口にいれてもらってデンタルフィルムを固定して、レントゲンをとります」長いまつげを伏せながら説明をしてくれる。
聞きながら血の気が下がっていくのがわかる。
口の中になにか入れるの無理。気持ち悪い。口を堅く閉じる。
「では、口を開けてください」
勇気がでない。口を開けたら終わりだ。
「開けてもらわないとレントゲンとれないんですが」
「そ、その、その大きいので固定するんですよね?」
極力、口をあけずに医者に話しかける。
「大きいですか? でも、口に入れてもらわないと、フィルムが固定できませんので」
「……ぼ、僕。おう吐反射が……アレ、でして」
「はい?」
声が小さかったからか、大きな身体をかがめて僕の前に来た。
大きな茶色の目で見つめられる。
「口の中に何か入れるの、苦手なんです!」
「ああ、はいはい。え? でもレントゲンとるの初めてじゃないですよね? 前はどうしていたんですか?」
そう問われて、確かに治療したことがある。
その時、レントゲンをとったことを覚えている。
いや、でも口にそんな変なの入れてない。……あれ?
じゃあ、どうしてたんだっけ?
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