新月へ向かう電車

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 窓の外を見ていたあすみは紙をめくる音がしてそちらを振り返った。先程まで誰もいなかったはずの電車内に二十代から三十代ほどの男性がいた。 「あの……」  あすみは男性に問いかけた。短く切り揃えられた髪が似合う爽やかな青年だった。男性は新聞を畳み、あすみの方を向いた。新聞の日付が半世紀ほど前のものだったことにあすみは気が付かなかった。 「お嬢さん、どうかしましたか」 「窓の外に地球みたいなものが見えるんですけど、この電車はどこへ向かっているんですか?私の家の最寄り駅どころか、地球の駅には着きませんよね?」  男性はおや、と眉を少し上げる。 「何も知らないでこの電車に乗っているのですか。……責めているわけじゃありませんよ。この電車は新月の日に月へ向かいます。月には『ひとかけの星』があってそれを食べに行く人が乗っているんです。そしてもう一つ、この電車には秘密がありましてね」  男性は一旦言葉を区切った。 「──もう亡くなってしまった会いたい人に会えるんです」 「会いたい人に……」
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