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またもや、寝かけていたあすみは先程の貫通扉が開く音がして、そちらを振り返った。亡くなった祖母だと思っていたあすみはそこに立っていた人物に驚く。
「え……?」
そこに立っていたのは男性だった。先程の人とは違う、亡くなった祖母と同じくらいの年齢の。
「あすみ」
その男性はあすみの名を呼ぶ。それと同時に、少しづつあすみの中に記憶が蘇ってきた。
「……吉野くん」
「懐かしいな。その姿でそう呼ばれると、まるで高校の頃に戻ったみたいだ」
あすみは全てを思い出した。
「たく、私を迎えに来てくれたんだね」
あすみが高校生だったのは数十年前。確かにその時あすみは鈴の音を聞いて電車に乗った。その時会ったのは祖母ではなく──祖父だった。
あすみの祖父はもともと体の弱い人で、あすみが生まれる前、さらに言うと、あすみの父の生まれたあとすぐに亡くなった。だから会いたかったのだ。あったことのない、おじいちゃんに。しかし、あすみは祖父の顔を知らなかった。
そしてあすみの初恋の人──吉野たくとと結婚して吉野あすみになったのはその約十年後。しかし金婚式を迎えて少ししたあと、たくとは亡くなった。その後、後を追う様にあすみも──。
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