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あすみはおどけて言った。
「この姿と、おばあちゃんになった姿とどっちが好き?」
「そんなのどっちも好きさ。でもあすみがその姿なら、俺もその姿になろうかな」
たくとは見る間に若返った。あすみと同じくらいの男の子に。
「私もどっちも好きよ。……懐かしいわ。こうやって電車に乗ってると、昔を思い出す」
あすみは横に座ったたくとにもたれかかった。学校の違った二人はこの電車の中でしか会えなかった。携帯もない、学校も氏名も知らない二人は一目惚れで恋に落ちた。
「懐かしいな。一時期電車に乗る時間が合わなくなったときは、俺、もう駄目だと思ったよ」
「私だって、もう駄目だと思ったわ。こんなことなら勇気出して名前聞いとけば良かったって」
二人は笑う。たくとはあすみの手を握った。
「でもこれからはずっと一緒だ。……ひとかけの星、食べに行こう?」
あすみは握られた手をほどいて、たくとに抱きついた。
「うん。……今度は、どこにもいなくならないでね」
地球からは見えない、新月の月に向かって電車は走っていく。
Fin
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