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その傘を慈しむようにうつむき加減に抱きしめていたまさみさんは、私の方に向き直った。
「私がたかだか証明写真の為だけに所を抜け出してくると思う?」
そう言われても、何と言い返したらいいのか。さらにまさみさんは続けた。
「由紀子さんが送ってくれた画像にこの傘が写っていたのよ。それでもしやと思ってきてみたらやっぱり私の傘だったわ」
「そうだったんですか。それは良かったですね」
私用で仕事を抜け出すのは良くない事だと思うけれど、今はそれは言うまい。でも‥‥‥あれ?
私が送った画像は作業している住民の方々の姿ばかりで、立った状態から斜め下を写しているような画像ばかりだ。こんな高い位置にある傘が写り込んでいるはずが‥‥‥
まさみさんは乗り込んできた車の前で一度立ち止まると、扉を開ける前に小声でつぶやいた。
「また‥‥‥会えたね」
傘を抱きしめて穏やかな表情でそう口にした視線の先には確かに三石さんの背中があった。
この事は私の胸の内にしまっておこう。
まさみさんの『また会えた』のセリフを向けた先が傘であれ、あるいは私の送信した画像の片隅に小さく写っていたあの好青年であったとしても‥‥‥
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