0人が本棚に入れています
本棚に追加
休憩時間も終わって作業が再開したと同時に、一台の車が目の前に止まった。『古村市役所』の文字が入ったそのドアが開くと、そこから降りてきたのはまさみさんだった。
突然の登場に私は焦ってしまった。今までにも数回、まさみさんが私のいる現場に来たことはあったが、それはあらかじめ『これから行きます』と事前に連絡があっての事だった。しかし今回は何の通達もなくいきなり現れたのだ。動揺するなという方が間違っている。
「ま、まさみさん、どうしたんですか突然」
焦る私にまさみさんは悪びれるでもなくこう言い放った。
「ゆきこさんの画像に証明写真の機械が写っていたのを見て、私が出勤前に写真を取っていたことを思い出したのよ」
それが何だというのか?と思っていたら、普段はクールなまさみさんらしくない話を聞かされた。
「実はね、私、写真だけ取って肝心の写真を取り忘れてたのよ。それで慌てて取りに来たって訳。あ、この事はみんなには内緒ね」
明日がまさみさんの免許の更新日で、忘れないうちに撮影しておこうと出所前に撮った証明写真をそこに置き去りにしていたという話だった。
一斉清掃翌日に早速振替休暇を選択したのはそういう事だったのか。いきなり休みやがってこの野郎などと思ってしまっていた自分が恥ずかしい。
「それで、あったんですか?」
「え?ああ、証明写真ね。無事まだそこに取り残されてたわよ」
既に写真は回収済みなのか。じゃあすぐにでも帰ればいいのに。なんて思っていたら、まさみさんはある人物に気が付いて声を掛けた。それはさっき私に声を掛けてくれた三石さんだった。
最初のコメントを投稿しよう!