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まさみさんの後ろ姿にくぎ付けになっていた私は、突然踵を返されてまた動揺してしまった。
「あ、あの‥‥‥」
もしかして今の人‥‥‥そう聞いてみようと思ったがうまく言葉にできなかった。
そんな私を無視するかのように私の脇を通り過ぎると、まさみさんはそこに設置されている電柱に手を伸ばした。
「これよ、これ」
そう言って手にしたのは、名称は知らないけれど電柱の上に昇るときに足を掛けるあの棒に引っ掛けてあった傘だった。
話を聞くとその傘は以前まさみさんが電車に乗った時に置き忘れてしまった傘だそうだ。デザインが珍しく、しかも父親からバレンタインのお返しに貰った大事な傘なんだという。早くに父親を亡くしているまさみさんにとってその傘は大事な大事な宝物で、暫くは落ち込み過ぎて仕事にならなかったんだとか。
「駅に問い合わせても見つからなかったのよ。多分誰かが無断拝借して、途中で雨が止んだからここに置いていったのね」
「でも、良かったですね。こんな奇跡的に」
「そうね、奇跡的な再会ね」
そう言ってまたまさみさんは目を潤ませた。
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