2.夏の国の王子

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「冬の国王ガーリブ、九番の息子サリーです」 「名前はそのままか」 「思いつかなくて」 それを聞いたシャリーフはフッと笑う。 「お前らしいな」 首を撥ねられてもおかしくないこのシーンで、シャリーフが笑うことにサリーは驚く。他の国の王子が身分を隠して怪しい薬を自国の王に持ってきていたと言うのに。 「もっと顔をよく見せろ」 「は、はあ」 被っていたシーツを渋々のけて、シャリーフと対峙する。するとシャリーフは手を伸ばしサリーの腕を掴んだ。 「顔も腕も真っ白だな。冬の国の民はみんなこんなに白いのか」 「日差しが弱いですし、全く日が届かない日もあります。夏の国の民の様に肌が焼けることはないです」 するっと腕をさするシャリーフ。ぞくっと震えるサリー。腕から離れたその手はそのまま首すじに触れて頬をさする。 「あ、あの」 まるで恋人の戯れのようなシャリーフの行動に戸惑うサリー。だがその甘さとは裏腹の質問をシャリーフはしてきた。 「肌を隠してまでこちらにきた理由は? ただのお使いではあるまい。あの様な薬まで持参して」 サリーはギュッと目を瞑る。これを言ってしまえば国際問題になるはずだ。下手すれば戦争にもなりかねない。恐らく父であるガーリブは出来損ないのサリーを擁護しないだろう。 妾の子など無用だ。戯言だとガーリブは切り捨ててしまうかもしれない、とサリーは覚悟した。 「……『レッドクリスタル』を、奪って、帰ろうとしてました」 それを聞き、シャリーフは眉を顰めた。頬をさすっていた指がぴたりと止まる。 「『レッドクリスタル』を?」 シャリーフの声にサリーはゆっくり頷いた。いよいよ首を撥ねられるか、と唇を噛むと今度はシャリーフが声を出して笑う。 「シャリーフ様?」 突然のことにサリーは面食らう。するとシャリーフは次の様に説明した。 『レッドクリスタル』が発掘されたのは随分と昔の話であること、魔法石は何十年も放置すると魔力が放電してしまうこと。そのため発掘された『レッドクリスタル』の魔力はあるところに蓄積され、いまはもう微弱な魔法しか石にないという。国宝扱いしていたのは、魔力を持っていた頃だけで、いまや王族の倉庫に眠るただの石だという。 「そ、そんな」 「国同士の情報もなんてこんなものさ。そうだ蓄積された魔力はどこにあると思う?」 「えっ、魔力を貯めるだなんて」 サリーはシャリーフの顔を見ながら回答に困っているときふと気づいた。夏の国の民の瞳は町人や使用人たちは黒か茶色が多い。ただシャリーフや他の王族の瞳は赤が混じった茶色だ。 「まさか、その瞳……」 「そうだ。王族一味の体に溜めたんだ。だから奪えない。というか、奪うなら戦争しかないだろうな。ガーリブ王はお望みか?」
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