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金髪に白い肌のサリーを見て、シャリーフはため息をついた。やはり冬の国からサリーは来たのだ、と確信する。
長いまつ毛と薄い唇。もう片方の手を伸ばし、指でその唇に触れてみた。
「う……ん」
眉を顰め、少し開いた口。シャリーフは指をそっと口の中を入れる。するとサリーはその指をフニフニとくわえ、まるでお菓子を舐める様にしゃぶり始めた。その仕草にシャリーフは驚き、思わず指を口の中から抜いた。サリーの口はまだ開いたままでまだ何かを待っているかの様だ。そしてその唇に惹かれるように、シャリーフは自分の唇を重ねた。
ふいにサリーが夢から浮上してきたとき、鼻腔に甘い花の香りがした。目を瞑ったままどこかで嗅いだことのある香りだ、と感じた。それはつい最近で、身近な香り……
ゆっくりと目を開けると、その香りはさらに強く香る。ぼんやりと天井を眺め、視線を左側にずらした時人の気配がして一気に目を開いた。慌てて上半身を起こしその影に呼びかける。
「誰?」
影はゆらりとこちらに近づく。そして気がついた。さっきの香りはシャリーフがいつもつけている香水。夏の国にしか自生しない甘く香る花の香水だ。そして影がシャリーフだと言うことにも気づいた。
「シャリーフ様……」
不審者ではなかったので、ホッとしたのも束の間。シーツから見える自分の肌の色に青ざめた。
(まずい)
魔法の効力が切れ、元に戻ってしまった肌の色。シャリーフに見られるわけにはいかない。
「あ、あの! もう身体は大丈夫ですから! こちらには来られなくても」
そういうサリーを無視してベッドに近寄る。いくら寝室が暗くても外からの月明かりで肌の色は分かってしまう。無駄とわかりつつもシーツを深く被り、顔だけ覗かせる。そしてシャリーフがサリーの目の前にきたとき、サリーは思わず目を閉じた。
(もうこれまでか)
「水を飲め。まだ顔色が悪いぞ」
シャリーフはそばにあったレモン水をコップに注ぎ、サリーに渡す。サリーは恐る恐る目を開け、シャリーフを見た。肌色に驚くでもなく普通の様子だ。コップを受け取り、それを飲む。そしてしばらくの沈黙の後、シャリーフが口を開いた。
「サリー、この国には緑の瞳は産まれないんだ。今度は肌色だけでなく、瞳も変えることだな」
それを聞いてサリーは思わず口の中の水を拭きそうになった。
「……き、気づいて……?」
「初めからな。肌の色を変えられる魔法が出来るなんて、庶民じゃないはずだ。サリー、お前は冬の国の王族だな?」
サリーは心臓を鷲掴みされたかの様な衝撃を受け、シャリーフを見ると、黒髪の王子は何も言わずにサリーを見つめていた。これ以上、何も釈明できなくてサリーは頭を垂れた。
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