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2.夏の国の王子
ラシードの息子、シャリーフは正門で門番達が騒いでいる光景を馬の上から見ていて首を傾げ、手綱を持つ付人のナージに話しかけた。
「ナージ、あれは何の騒ぎだ」
「うん? 門番が誰かを囲っているように見えますねぇ」
二人が近づいてみると、三人の門番がみすぼらしい服を着た華奢な男を囲んでいる。服装からして、どうやら城内のものではなく町人、或いは商人のようだ。
お待ちください、とナージは一人の門番に駆け寄ると、門番は一礼してこの騒ぎの顛末を話した。それを待っている間、シャリーフはその華奢な男を見ていた。
袖口からのぞく腕がやけに細い。肌の色は褐色だが何故か違和感があった。門番が何かを言いながらかぶっていたフードを取ると金髪が現れ、門番は睨み付けるその男の勢いに圧倒されていた。
「シャリーフ様」
門番から聞き出した話を伝えるため、ナージが駆けてきて、聞いた内容を話す。
どこからともなく現れたこの男は、突然ラシード王に会いたいと言い出し、門番が要件聞くと『ラシード王は足を悪くされていると聞いた。私が持っているこの薬は万能だから、ぜひ飲んでいただきたい』と言ったという。
そんな理由で王に合わす訳にはいかないと制止したが、男がしつこくてこういう騒ぎになっているらしい。
「何を考えているのですかね、あの男は。そんな怪しい薬など王に飲ます訳ないのに」
ナージは顎髭を触りながらそう言うと、シャリーフは馬から降りてそのまま門番と男のいるところへ近寄っていく。
突然現れたシャリーフに門番が慌てて礼をするものの、例の男は一礼もせずシャリーフを見ていた。
金髪にみすぼらしい服装。腕だけではなく足も細く、顔も少しほおがこけていた。そしてシャリーフが一番驚いたのは……その瞳だった。
夏の国の人々は黒、もしくは茶色。濃淡はあるもののその二色が多い。まれにいるのは赤みがかった茶色の瞳だった。だが、目の前の男はよく見ると緑がかった瞳をしている。こうやって視線を合わせた時、違和感があったのはその色だからだ。門番たちもこの瞳の違和感に、不審を抱いているのかもしれない。
「……その薬とやらは、本当に効くのか」
シャリーフの言葉に門番とナージが驚く。目の前の男も、少し驚いた様子だった。
「はい。我が父が配合したものです。効果はございます」
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