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門番達の様子で、シャリーフが只者ではないことは分かるはずなのにその男は臆することなく、キッパリと断言した。射るような眼光にシャリーフはその男に興味を持った。少しだけ口元を緩め、頷く。
「そうか。ではついてこい」
「シャリーフ様!」
思わず大きな声を出したのはナージだ。門番達もどよめいていた。
「ただし、効果が出るまでお前は城に軟禁する。効果が出ればそれなりの褒美をやろう。そのかわり出なければその時は分かるな?」
シャリーフの声にその場が鎮まりかえる。その言葉に男は息を呑んだが、ぐっと拳を握り答えた。
「承知いたしました。我が父のこの薬は必ずラシード王にとって良薬となります。私の身はお好きになさってください」
***
サリーは広い部屋に連れて行かれ、ここがお前の部屋だと髭を蓄えた背の低い付き人に言われた。サリーの肩くらいしか身長がないのに何故か威圧感がある。
『全くシャリーフ様も何故このような奴を……』
彼はぶつぶつと文句を言いつつ窓を開けた。室内のカビの匂いが長いこと使われていない部屋だと言うことを物語っている。
『すみません』
サリーがそう言うと少しだけ眉をあげ、付き人はふん、と顔を背けた。
『いいか、あの薬が効かなかったら、大変なことになるぞ。お前、逃げるなら先に俺に言ってくれよ、とっとと逃してやるからさ』
きっとこの付き人は自分の世話がめんどくさいのだろうとサリーは考え苦笑した。
『よろしくお願いします。えっと…』
サリーが握手を求め、手を伸ばし名前を聞こうとしたが、付き人はその手を叩いた。
『ナージだ。握手は薬が効いてからな』
なかなか手強いな、とサリーは再び苦笑する。お前の名はなんだとナージに言われ、偽名を準備してなかったことに気づいたサリーは仕方なく本名を名乗った。
『サリーと申します。よろしくお願いします』
そして、一人になったサリーはベッドで悶絶していた。
「つってぇぇぇ、どぉぉするんだよぉぉ!」
ベッドをバンバンと叩きながら己の境遇にパニックになっていた。門番と揉めるのは想定内だった。恐らく門前払いになるだろうと、分かっていた。だがその後の作戦も立てておいたというのに、全てを崩したのはあのシャリーフとかいう男。突然現れたシャリーフは気品溢れる姿と振る舞いで、すぐに王族であることは分かった。
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