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門番や付き人の態度からするとかなり王に近いのかもしれない、とサリーは悟った。長い黒髪を結い、逞しい褐色の腕を組んでサリーを見ていた目はどことなく全てを見透かされているようで。あの時、心臓はバクバクしていたが冷静を装いシャリーフと言葉を交わした。その結果が今。
まさか部屋をあてがわれて、軟禁されるとは思わなかったサリーは、この後どう動くか頭を抱えていた。
手にしていた薬は、足に効くのは間違いない。冬の国では寒い時期に足を痛めてしまうことが多いから、医学魔法士が薬を開発したのだ。その配合には夏の国で取れないとされる植物が使われている。ガーリブはラシード王が足に持病があるという情報を入手していたのだ。
この薬を売り込み、ラシード王の気を引いて、城に入り込めば『レッドクリスタル』を盗めばいい。そんな大雑把な計画をサリーはたてていた。
冬の国に帰れば、父や兄の目が変わるはずだ。ただ『レッドクリスタル』がどれくらいの大きさかサリーは知らない。
(まあなんとかなるだろ)
悶絶しても始まらない、とサリーはため息を一つつくと、そのままベッドの上で寝てしまった。緊張もあったせいか、あっという間に深い眠りについたサリーは、部屋に誰かが入ってきたことなど、全く気がついていなかった。
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この世界では、四つの国は国民がお互いの国に行き来するようなことはない。それぞれの国を分断するかのような大海原。それが人々の移動の妨げになっていた。一般の庶民はもちろん、王族でも他の国へ行くことはほとんどないのだ。それぞれの国の様子は王と一握りの後継者しか知らない。
シャリーフはその後継者のひとり。そして冬の国の民の瞳が緑であることを学んでいた。文献だと鮮やかな緑らしいが、あの男は何故か薄い緑だった。
ナージには得体の知れない男を城に入れるなんて、とさんざん咎められた。ナージはあの男が冬の国の民であるだろうことは、知らないのだ。あの男はきっと冬の国の民だろうとシャリーフは考えた。ならば何故冬の国の男が王に接見を求めたのか。いい予感はしなかった。
着替えを終えた後、シャリーフは長いこと使われていなかった部屋、つまりサリーにあてがわれた部屋に向かう。ドアノブを回し、部屋に入りあたりを見渡すとベッドにうつ伏せにのまま、まるで倒れているかのように眠っているサリーがいた。靴も脱がず、服も先ほどの格好のままだ。
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