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カビ臭い室内をすすみ、男の横顔を見る。金髪の彼はよだれを垂らしてぐうぐうと気持ち良さそうに眠っていた。さっきの騒動の時に見せた顔とは別人のよう。シャリーフは手を伸ばすと前髪を少しかき揚げ、生え際を見た。すると褐色の肌と白い肌のまだらな地肌が見えたのだ。
(やはり肌の色を変えているのか)
ここまで綺麗に肌色が変わっているのは、染料などではなく魔法なのだろう、とシャリーフは考えた。すると彼は魔法の使える王族であるということになり、ますます緊張感が高まる。だがよからぬことを企んでいるような男に見えないのは、この寝顔だからだ。まるで緊張感がない。
前髪から手を離し、今度ば袖口から伸びた細い腕に触れる。驚いたのはその感触だ。夏の国の人々は筋肉質で硬い。なのにこの腕は柔らかく、すべすべしていた。シャリーフが二、三回腕を触っていると、男は眉を顰めた。
「ん……」
くすぐったかったのか、身を捩る。その様子を見ながらシャリーフは手を離し、今度はうなじに優しく触れてみた。すると体がビクッと揺れ、そのまま耳たぶにも触れる。
「ンッ……」
その良すぎる反応に、シャリーフは口元を緩めて手を離した。
***
サリーがけたたましい音でナージに叩き起こされたのはそれからしばらくして。
「起きろ! お前着替えもせず寝やがって」
シーツが汚れてしまうだろ、とナージの言葉に目をこすりながらサリーは身を起こそうとして肌の色が戻っていることに気づく。
「あっ、すぐに着替えますから、着替えいただけますか? あと恥ずかしいのであちらに…」
「なんだあ、お前! 女みたいなこと言いやがって! ほらよっ」
ナージは小さな体でぷりぷり怒りながら、服を投げ部屋を出ていく。ホッと胸を撫で下ろし肌の色を変えナージが持ってきた服に着替える。夏の国の白い民族衣装に、木靴。耳には大振りの耳飾りをするのが正式な装いだ。
髪を整え、扉を開けると遅いと怒られた。
「シャリーフ様に挨拶に行くぞ。その後は飯だ」
「ラシード王ではなく?」
「お前、王に会えると思ってるのかよ! シャリーフ様とお話できるだけでも光栄と思えよ」
シャリーフ様とは何者だ、と聞こうとしたがそれこそ怪しまれてしまう。サリーは言葉を飲み込み、通路にある鏡を見た。褐色の肌の自分はまだ見慣れない。
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