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サリーの部屋より何倍も広いその部屋は至る所に調度品が飾られていて、床には鮮やかなオレンジのラグが敷いてあった。
「シャリーフ様、お連れしました」
先ほどの砕けた口調から一転、ナージはかしこまり部屋の中央の椅子に座るシャリーフに一礼した。隣でサリーも一礼する。
昨日会ったばかりの黒髪の彼は、サリーの姿をまじまじと見ながら呟く。
「その格好だと安心するな。昨日の服はお前には似合わない。ああ、ナージもういい。下がってくれ」
「はい。またお呼びください」
一歩下がり、ちらとサリーを見てナージは部屋を出て行った。
部屋にいるのはシャリーフとサリーだけだ。豪華な装飾のついた椅子に座るシャリーフを見ながらやはり王族なのかと緊張し、言葉が出ない。
「どうした? 挨拶はないのか?」
シャリーフに促されて慌ててサリーは一礼する。
「申し訳ございません。この度は不躾な振る舞い大変失礼いたしました。サリーと申します」
変な挨拶になってないだろうか、とサリーは自分の鼓動の音に緊張する。シャリーフはそんなサリーを見ながら椅子から立ち上がると近づいてきた。
「夏の国王ラシード、二番目の息子シャリーフだ」
ひっ、とサリーは心の中で悲鳴をあげる。
(よりにもよって王子?)
顔を上げることが出来ずに、下を向いているとシャリーフが顔を上げるように声をかけてきた。
「お前の父親の薬はどれくらいで、王の足を治す?」
「……お、恐れながら、私は国王のおみ足の状態の詳細を知っておりません。父の薬が必ず効くとは言えどのような状態か」
「今は歩けるがこのままなら切断らしい」
そんなに悪いのか、と思いながらも自分の持ってきた薬は本当に効くのかいささか不安になった。切断するような足の病気をも治してしまうというのは聞いたことがあったが……
「恐らく一年くらいは」
「そうか。お前の扱いだが、さすがに客人にはできない。だからナージの業務を手伝ってもらう」
「は、はい」
サリーは言葉を聞きながら、むしろこれはチャンスなのでは無いかと思い始めていた。ナージは恐らく付き人をするくらいだから、城の中でも中堅の使用人だろう。それであればナージについてきいながら城の中を散策しうまくいけば『レッドクリスタル』の在処を知ることができるかもしれないと考えた。期限は一年。それだけあればなんとかなるかもしれない、と。
部屋に戻り、出された食事を平らげるとサリーはまた深い眠りについた。
翌日。シャリーフの命令とはいえ、ナージの反抗はそれは酷いものだった。
「何でこいつと一緒に仕事しないといけないんですかっ」
いつもならシャリーフに対して礼儀正しい口調のナージが取り乱している。シャリーフとナージは歳が近く、子供の頃から一緒だったので身分は違えど仲の良い二人。シャリーフは、ナージの反抗も分かっていて、結局は面倒を見る性格だということも分かっている。
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