1.冬の国の王子

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1.冬の国の王子

この世界は四つに分かれていた。春の国、夏の国、秋の国、そして冬の国。 国民的もそれぞれ特色を持っており、穏やかな春、血気盛んな夏。ロマンチストが多い秋、冷静な冬。古くは領土の奪い合いという悲しい歴史を歩んだこともあるが現在は平和な世界。奪い合うことは得策ではないと先代の王たちは学んだのだ。 だが一つだけ未だに燻っている出来事がある。それは夏の国の鉱山から発掘された『レッドクリスタル』と呼ばれる鉱石。『レッドクリスタル』はこの世界で使われている魔法の力を増力する力がある。赤に輝く鉱石で今まで発掘されたより桁違いの大きさと力であることから、王に献上され、いまは城で厳重に保管されていると文書に記載されている。 もっとも最近は魔法の回復薬が開発され、薬屋で購入し気軽に回復する。それでも希少価値が高いこの石は夏の国にとって国宝扱いとなっていたのだ。 他の国では採掘できない『レッドクリスタル』。それをどうにか手にしたいと企んでいるのは冬の国の王、ガーリブだ。ガーリブの祖先は昔、まだ領土の奪い合いをしていたころ、夏の王と犬猿の仲だった。長い時間を経て、現在は解消されているはずなのだが、ガーリブは何故か夏の王ラシードを嫌っている。 ある頃から、ガーリブはラシードにほんの少し困らせてやりたいと考えるようになっていた。そして『レッドクリスタル』を使って嫌がらせをしてやろうと考えた。一国の王が考えるようなことではないし、冬の国は冷静な国民性のはずなのに、ガーリブはラシードのことになると、頭に血が登ってしまうのだ。 「サリー様! 王様がお呼びです」 ガーリブの九番目の息子、サリーが庭で花を愛でていると使用人が息を切らせて呼びにきた。 「えー? 何だろうなァ。」 末っ子のサリーは父親のガーリブと話す機会は少ない。さらにいうとガーリブには三人の妃がいるが、サリーは妾の子。あまり優遇されていないのだ。 サッと身なりを整えてガーリブの部屋へと急ぐ。ガーリブと会ったのは昨年、成人の儀を行って以来だ。真っ白な扉に金色の彫刻が施されたドアノブ。そしてその前には召使いがいて、サリーを見かけると一礼しドアを開く。ドアの向こうにある大きな椅子にデン、と座っていたのは王であり、サリーの父だ。 「久しぶりだな、サリーよ」 一礼する息子に父は優しく微笑んだ。そしてガーリブはサリーにとある【用事】を言いつけたのである。
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