キミアレルギー

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 黄海くんと出会ったのは、大学のサークルだった。アニ研に一年後輩の彼が入ってきて、半年くらい経ったときに私から告白した。初めての告白で噛み噛みのそれに、彼は優しく笑って「いいよ」って言ってくれた。今でもあの日の胸の高鳴りを鮮明に覚えてる。  彼は私のことを名前で呼ばない。アニ研に入ってきてすぐに、三つ編みメガネの私のことを「ちびまる子ちゃんのタマちゃんに似てますね」って言う理由から、そう呼ぶようになった。本名は佳奈子だからタマなんて掠りもしない。それでも彼だけが呼んでくれるあだ名が最初はすごく嬉しかった。 「タマちゃん見て見て!エイ!」  いつからだろう、彼がタマちゃんと呼ぶたびに寂しさを覚えるようになったのは。彼は私の本名を知っているのだろうか。私が卵を食べたらどうなるのか、知っているのだろうか。 「ほんとだ、大きいね」  知ったところで、彼にとっては重要な問題じゃないのかもしれない。じゃなきゃあんな屈託の笑みで、シュークリームなんて買ってこない。 「イルカショーあるって!見に行こ!」  はしゃぐ彼に手を取られて、薄暗い館内を歩く。この手の温もりを初めて知ったときは、幸せに胸が締め付けられたのに、今はこんなにも苦しい。  黄海くんの気づかないところで、恋が窮地に陥っている。そう思わずにはいられないほど、彼と一緒にいると不安ばかりが襲ってくる。
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