花見の季節

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私は桜が嫌いだ。まだ、誰にも言ったことはない。そのため今年も会社の同僚の誘いを断り切れずにこうして当たり障りのない笑顔で桜の木の下のレジャーシートに座っている。いやなら理由を話していかなければいいだろという人もいるかもしれない。だが、日ごろ付き合いのある人には絶対に言いたくない。なぜなら、情趣を解する心のない人というレッテルを張られて冷ややかな目で見られるようになるからだ。今の時代多様性だなんだとか言ってるけど結局のところ少数派は理解してもらえないものである。いろいろ言ってるけど桜の美しさを人並みに感じ取る感性は持ち合わせていると思う。じゃあなぜ嫌いなのか、疑問に思うだろう。一部私の偏見が含まれているかもしれないが、例えば自分の好みピッタリの人と出会い好きになった。ここで付き合って結婚したいと思うのが多数派でさっきの話で言う桜が好きな人々である。一方、その人が大好きだが、好きすぎるがゆえにその人と結婚なんて考えられないという少数派が桜が嫌いな人である。端的にいうと桜が美しく、愛でたいものであるがゆえにその美しい全盛期が終わり、地面に散った花びらが人々に無情にも踏まれ、しまいにはそれが桜の木であることさえ忘れられ、寂しく次ぎ来る春に備える姿が不憫でならないので無理やり嫌いだと思い込んでいる。不憫だ。花を咲かせてもなお根っこの上に座っている人々はビールにご飯ばっかり飲んで食べている。そして会話に爆笑して上を見上げた時、花見に来ていることを思い出すのである。
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