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2時間前:ホテルに入っても、私はゴネ続ける
繁華街にあるそのホテルは、高速の降り口からすぐの所にあって、人目に付くことなく駐車場に入ることができる。だから、この手の会見にはよく使われるらしい。でも正直、どうでもいい。
控え室に入って自分でメイクを始める。元々、メイクとかエステにはあまり関心ないけれど、今日は特にそう。どうせみんな私の一番醜い顔を狙ってるんだから。絶対に泣いたりしないけどね。
会見開始は15時、夕方のワイドショーなんかに最新情報として入れられる時間。何なら生中継する局もあるかも。まな板の上の鯉のように、私は大衆の好奇心の前に差し出される手はず。本当にファッキン。
私の事務所は小さいからもみ消すこともできず、ヨシダの事務所はそれなりに力のある所だから、今回の件は私が100パー悪いことになっている。
ま、誘ったのは私の方だから、それは別にいいよ。
事務所では、私はそれなりに稼いでいる方。とは言っても、有名なのは私と同期のマツダくらい。社長は最近ずっと青い顔をしている。どこかの偉いさんからの電話に出ては、ペコペコ謝っている。ちょっと悪いな、とは思うよ。さすがに。
でもさ。でもですよ。
「私が迷惑をかけたのはさ、ヨシダの奥さんだけじゃん。で、あいつだって男がいたんだからさ」
「それもダメですよ。サキタさん。反論とか、絶対にダメです」
「マネージャーとして、何かないの?。この状況を打開できる何か」
「それが、今日の謝罪会見じゃないですか。サキタさんの真摯な謝罪によって、大衆が納得したら、許してもらえるんじゃないですか」
「だから許す許されるって、別に大衆には迷惑かけてないっつーの。むしろ楽しませてくれて、ありがとうって話じゃんか」
「・・・・・」
「つーかさ悔しくないのかヤマムラ。この私が大衆の好奇心のエジキになるのがさ」
「・・・・」
「私のイメージは地に墜ちるぞ。この清純でどんな時でも真っ直ぐに生きるサキタさんのイメージが」
「・・・サキタさん」
「何だよ」
「私だって悔しいですよ。アイドル時代から10年一緒にやってきたんですよ」
ヤマムラは、ちょっと見たことのない顔をしていた。目も潤んでる?
ちょっとゴネすぎたか。私は一瞬反省する。
いやいや、ちょっと待て。
「・・・ヤマムラ」
「なんですか・?」
「私たちは、どこで間違ったんだろうな」
「そりゃ、サキタさんがヨシダに惚れたところからですよ」
「いや、そうじゃないんだと思うんだ」
「じゃ、どこですか?」
私はヤマムラを人差し指でさす。
「お前らが作った、私のイメージの失敗だ」
ヤマムラは、空虚な顔で私を見た。
(今、そんなこと言うのか)
そう顔に書いてあった。
私はサキタ。本当は清純でも真っ直ぐでもない、ただの喧嘩好きな女。
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