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女優サキタのイメージが築かれるまでの道のり(本人目線)
元々私は横須賀のヤンキー崩れ。曲がったことは嫌いだけど、真っ直ぐすぎる人はもっと嫌い。「ふゆは黙っていれば、それなりにキレイなのに」と言われるたびに、その口に向かって中指を立ててきた。
17歳でアイドルグループに入ったのも、100パーお金目当て。周りの女の子が「サポーターの皆さんに感動をもらってるから、ステージで返さないと」なんてキラキラした目で語るのを鼻で笑ってきた。
どうせいつかクビになると思ったから、運営にも言いたいことを言ってきたし、ステージ上でも媚びを売るようなことはしなかった。
ただ、歌や踊りは楽しかったな。体力の限界に挑戦する系のグループだったから、それは結構燃えた。体力の無い後輩のフォローもしたし、ステージで倒れたのもフェイクじゃ無かった。いつの間にか「クールなダンス番長」っぽいイメージが定着してきて、それはまぁ良かったな。
22歳くらいで卒業したら、トラックの運転手でもやろうと思っていたし、雑誌とかのインタビューでもたいていそう答えていた。
「サキタちゃんって、本当に面白いキャラだよね」
そう言われることも多かった。や、キャラじゃないんだけどな。
でもここまでは、そんなに失敗でも無かった。
「やっぱさー、あの一発目の映画が良くなかったよな」
私は能面のような顔をしたヤマムラに向かって言った。わかってる。私の無茶にキャパオーバーになった時に、この人はこういうスイッチを切ったような顔になる。でも、私は気にしないけどね。
「ほらあの、余命半年のやつ。あのお涙ちょうだい的な、お涙しかいりませんみたいな映画」
「ヒットしたじゃないですか。それなりに。サキタさんだって、結構力入れてやってたじゃないですか」
それは認める。あの頃は馬鹿親の新たな借金が判明した手前、トラック運転手の道は閉ざされ、女優として荒稼ぎしなければと心に決めた頃だった。
本来の私とは全然違う、余命半年の彼氏が甲子園だか花園だかに出る夢を叶えられるよう、ひたすら尽くすマネージャー。すると自分にも病が判明し、それがなんと彼氏より短い余命3ヶ月。どっちの命が先に消えるのか。
・・・・。
なんであの映画、ヒットしたんだろうな。そんなにみんな泣きたいのか?
でも、演じるのは楽しかった。それは認める。
自分とは違う何かになること。「お話」の中だけにあるキャラクターに命を吹き込むこと。それは確かに面白かった。
でもさ。
まさか、そのイメージを多くの人がリアルの私に重ねる何て思わなかったよ。お前ら、詐欺とかに遭わないよう気を付けた方がいいぞ。
私は本気で心配したけれど、どちらかと言えば、もっと自分の心配をすれば良かった。
一度できあがった世間のイメージを覆すことは、思った以上に大変だった。
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