45分前:私が知りたいこと

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45分前:私が知りたいこと

そうだ、私には知りたいことがあった。納得できないこと、と言ってもいい。 相手のヨシダとは、話がオープンになってから話せていない。私は連絡を取ろうとしたけれど、返信は返ってこなかった。それが本人の意思なのか、事務所の意思なのかはわからなかったけど、もし話がしたいと思ったなら事務所に止められたって話そうとするはず。私が知っているヨシダにはそれくらいの覚悟があったけど、今となっては、それも本当のヨシダだったのかはわからない。 何かを演じるということを一番に考えていた。その妥協の無さが好きになったきっかけだし、もしかしたら、それはドラマのためだったのかもしれない。 あのドラマ「薄い膜」は、不思議なドラマだった。私とヨシダは互いに思い合ってるはずなのに、そんなシーンは1ミリも無かった。すれ違い、というのでもない。普通なら描かれるべき恋愛シーンはすべて排除され、でも互いへの思いは台本の端々から感じられる。 何だか面倒くさいドラマだなと私は思った。 でも、ヨシダは違った。 「これは勝負してるホンだ」そんなことをあいつは言った。 ヨシダにとって大事なのは、勝負してるかどうか、何かの壁を壊そうとしてるか否か。そういう姿勢も格好良く映った。1歳年上のヨシダ。馬鹿だった私。 ドラマの撮影の前に言われた。 「台本の中身について役者同士で話し合うのは禁止です。役者に配られている台本に書かれている内容は、必ずしも同じとは限りません」 何だ、それ。 私は文句を言おうとしたけれど、ヨシダはそれより早く賛同の意を表明して、場の空気は決まった。脚本家と演出家は、今のテレビドラマのトップランナー。2人が組むドラマは制作が発表されるだけで話題になった。そんなコンビのドラマに抜擢されたんだから、嬉しくないことはなかった。事務所はその3倍くらい盛り上がっていた。 私は私なりに頑張ったよ。私と同じ名前の主人公「はる」に与えられたセリフと行動。そこから彼女の内面を読み解いて、それを自分の中にインストールしていった。きっとヨシダも「カズマ」として私の前にいて、ドラマに集中すればするほど、私は混乱していった。自分の気持ちが、どこまで演じているものなのか、本当の気持ちなのかがわかならくなっていった。役の「カズマ」ではない生身のヨシダに惹かれていく思い。その気持ちを抑えながら、同じような気持ちを抱える「はる」を演じる。それが演出陣の狙いだということは、すぐにわかったけれど、わかったとしてもどうしようもなく、そして。 そして私は怒った。私の心を操ろうとする「あいつら」に対して。 ふざけんなと。 そしてあの日、ヨシダを誘った。ちょっとふたりで会いませんか。 それは私自身の行動でもあったし、「はる」としての行動でもあった。 両方をぐちゃぐちゃに混ぜて、ぶち壊してしまいたかった。 それが正しいことだったのかは、わからない。 どう評価されるかなんて、どうでもいい。 でも、ヨシダ。 あなたは、どうだったの? なんであの日、あなは約束の場所に来たの? そして、なんでそのことを週刊誌は知っていたの?
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