20分前:やる気のない記者オカヤマが着席する

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20分前:やる気のない記者オカヤマが着席する

記者会見ではだいたい前から3番目くらいの席に着く。相手の表情を確認できて、でも相手に近すぎない距離。私はバッグからラップトップのPCとICレコーダーを取り出して、動作を確認する。 西加奈子とか原田マハとか、そういった作家と仕事をしたくて入った出版社。 就職面接で「最初は週刊誌かもよ」と言われて、任せてください!と応えたものの、入社から3年も芸能担当が続くとは思わなかった。最初は真剣に悩んだりもしたけれど、最近はモードを切り替えられるようになった。それがいいことかどうかはわからないけれど。 今日の会見はそれなりに関心はあった。女優の咲田はるの初めてのスキャンダル。相手はドラマの共演相手、吉田一馬。他社のスクープだから、うちはそんなにページを割かない方針。でも、ネットはかなり盛り上がったるし、今日の会見次第ではさらに燃えるかもしれない。 私と同い年の咲田という女優は気になる存在だった。アイドル上がりでありながら、表情には不敵な佇まいがあり発言もストレート。でも、時々とても寂しそうにも見える。それが何に起因するものかわからないところが、また気になるポイントだった。 咲田は会見で何を語るんだろう。謝罪会見の、あのうんざりするようなテンプレの茶番劇を彼女もするのだろうか。もしそうだったら残念だな、と思っていた。カメラマンたちが最前列のその前の床に直に座って、準備をしながらあれこれ下世話な話をしているのが聞こえる。 私がその一部であるところの芸能マスコミが、彼女をどう料理しようかてぐすね引いている。たぶん、すこし気高いイメージすらあった咲田の価値は今日の会見で地べたに引き落とされる。仕事を始めた頃にはヒリヒリと感じていた罪悪感。それを久しぶりに思い出す。私たちに彼女を裁く権利なんてないのに。 今回のスキャンダルは、あまりにもタイミングが良かった。最終回の直前に、初めてのホテル泊を一社のみが嗅ぎつけた。これは何かあるよな。それは芸能マスコミでのキャリアが長いとは言えない私にだってわかった。 誰かが、誰かに恨まれていたか。誰かが何かのために、計画したか。 それが何なのか、まではわからないけれど、おそらく咲田は何かの犠牲になっている。そんな気持ちがしていた。 会見の時間が近づいていた。
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