24人が本棚に入れています
本棚に追加
会見開始:そしてフラッシュが女優サキタに光る
重々しい両開きの扉を黒服が開く。結婚式なら、お色直しが終わった新婦が登場するシーン。私の脇を固めるのは新郎じゃなくて、心労を抱えた弁護士セキグチ。大量のフラッシュが光る。私がこんな風に結婚式を開く未来もあったのかもな。まだ無くなったわけじゃないけれど。少なくともヨシダとはないな。そもそもなかったか。
横長のテーブルの真ん中に座る。いや、座っちゃだめだ。まずは横一列に並んで深々と礼。練習したやつ。じゃなくて、喧嘩売るバージョンでやりたいな。
ちらりとマキノを見る。と、セキグチが勝手にお辞儀を始める。ゆっくりとお辞儀の姿勢に入る。慌てて、追いかける私。出鼻をくじかれた。
顔を上げると、わお。すごい数の報道陣。その後ろに三脚を思い切り高くしたテレビカメラ。脚立に乗ったカメラマン。最前列にはあぐらを組んだスチールのカメラマン。私の表情が崩れた瞬間を狙っている。崩れるもんか。女優をなめんな。
司会が語り始める。本日はお忙しいなかお集まりいただいて・・・。まずは弁護士から今回の記者会見における注意を・・・・。
セキグチが話し始める。
「えー、本日はお忙しいなかお集まりいただき、誠にありがとうございます。今回の記者会見に先立ちまして、いくつかの注意とお願いを、顧問弁護士である私セキグチからお伝えさせていただきます」
そしてセキグチは、いくつかのポイントでマスコミに釘を刺す。芸能人と言えどもひとりの人間、とか。実家の取材とか行き過ぎたものには、然るべき措置を取る、とか。丁重だけど、大手マスコミが気にするであろうポイントに、着々と布石を打つ。いいぞ、セキグチ。いい仕事してる。
そして、次は私の番だ。セキグチが私の方を見た。大丈夫ですか?そんな視線。私なら大丈夫だよ。大丈夫、心配するな。私は私を貫く。
会場の脇には、ヤマムラが心配そうに私をみている。
悪いなヤマムラ。お前の心配は、たぶん的中するよ。
「それでは、今回の件について、サキタ本人からお話があります」
私は立ち上がった。その瞬間、何人かのカメラマンが私の背後に回ろうとする。お辞儀している私ごしに、大量のマスコミとカメラがフラッシュを浴びせる、みたいな絵を撮りたいんだろう。なんて陳腐な表現。私は後ろに回ったカメラマンに、向き直る。「どうかしましたか?」そんな表情で微笑むと、カメラマンは戻っていく。
私は頭を下げた。フラッシュの音が響く。1、2、3。そして顔を上げる。
そして私は席についた。
たったまま話した方が、けなげさは伝わるだろうけど、私は座った。
今のは挨拶の礼だ。お前らに謝ったわけじゃないぞ。
最初のコメントを投稿しよう!