雪を掴む

1/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 誰にでもきっと、大切なものはあるのだと思う。  決して満ち足りているとは言い難い日々だったとしても、それがあれば気丈に振る舞える。そんな何かが、誰にでも、きっと。    例えば、私の場合。  学校はあんまり楽しくないけど、家に帰れば大好きな家族が居て、たくさん幸せをくれる。  それで、私は毎日を絶やさず紡ぐ努力をしようと思える。  父は私が生まれる前に死んでしまったけど、母と姉はその分以上に私を可愛がってくれたし、飼っている犬もよく懐いてくれていた。  ……何故か母にだけは懐かないけど。  母は聡明で真面目な人で、堅実に働いてくれてお金に困ることはなかった。かと言ってお金持ちだったわけではないけど、私たちには充分だった。姉が倹約家だったおかげもあるかもしれない。  ……そんなふうに、学校は少しだけ嫌だけど、家にはちゃんと居場所があって、それなりに幸せで。私にはそんな日々が大切だった。    でも、もしその大切なものが、突然消えてなくなったら?
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!