可南子の桜

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 祖母の手を引っ張りながら興奮ぎみに薄墨桜を目指す可南子。  近づくにつれ、その大きさはますます迫力を増した。  なんだろう、ちょっと怖い。  胸がドキドキする。  可南子は歩みを止めて、祖母の腕にしがみついた。  異様なのだ。  最初はその大きさや華やかさだけに目がいって気がつかなかったが、翼のように、あるいは星雲のように大きく広がった無数の枝のそれぞれが、補強のために添えられた巨大な棒に括られ、支えられていた。  「かなちゃん、わかる?  この桜の樹はね、おばあちゃんのおばあちゃんのおばあちゃんが生きていた時代よりも遥か昔に生まれて、とっても長生きをしているの。    この草原で太陽の光をいっぱい浴びて、長い年月をかけて、大きく大きく育ってきたの。  やがて、大きく育ちすぎだその幹や枝は、もう自分の力だけでは立っていることができなくなってきたのよ。  でもね、この桜の樹はいつの時代もここの土地の人々に愛されていたの。  愛されたからこそ、みんなでこの立派な樹の姿を保つ努力をしたのよ。」  祖母の説明を聞いたとき、最初はすごく良いことなんだと思った。  でも、祖母の顔は少し哀しそうに見えた。  この薄墨桜は人間の都合で生かされているだけなのでは?  いつの頃からか、そう思うようになっていた。  
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