可南子の桜

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 君野可南子(きみのかなこ)は激しく揺れる満員の列車の扉に体を預けながら、車窓に流れる懐かしい景色を眺めていた。  人口15万都市の中核駅である始発駅と終点の山里の駅を結ぶ1両編成のワンマンローカル鉄道。  運行は1時間に1本、それでも普段なら乗客は10人足らずであろう。  しかし、毎年3月下旬から4月上旬あたりは満員電車になるようだ。  可南子が子どもの頃はこんなに混んでいなかったのに。  インターネットによる情報拡散の影響なのか、それともSNSによる映え文化の産物であろうか?  何にせよ、予想外であった。  満員電車の乗客の目当ては終点の駅から徒歩15分ほどにある桜の名所である。  可南子も同じ場所を目指していた。
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