可南子の桜

　祖父との直接の記憶はないが、祖母の家には祖父の生活がそのまま残されていた。

　おばあちゃん、この座布団は片付けていい？

　カナちゃん、それはおじいさんが座る座布団だから、そこに置いておいちょうだいね。

　そのときはじめて幼いながらに可南子は気づいた。

　お茶碗も、靴も、作業着も、机も椅子も、おじいちゃんの使っていた物と一緒におばあちゃんは生活しているんだと。

　大好きだったおじいちゃんと、きっと今でもこのお家で暮らしているんだと。