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アイドル
今日も眩しい陽射しが身体中の汗腺を刺激する、踊っても歌ってもフアンにとってはオーラを纏うアイドル。
夏の日差しをもろともせず、スタジオ入りを長時間待つ女性達。
彼女たちに取り囲まれ、嬉しそうに偽物の笑顔を振りまき、汗の滴った手で渡されたプレゼントを受け取る。
サインをねだられても嫌な顔など微塵も見せず、ひたすら作り笑いを崩さないように気を付けた。
宝生 祐月は人気絶頂のアイドル、ドラマも曲も出せば必ずヒットすると約束されたように、間違いなくヒットチャートにランクインした。
つい1年前まで無名の存在だった、始めて出演したドラマが世界中でヒットし、同時に発売されたテーマ曲も劇中の挿入歌も空前の大ヒットとなった。
あらゆる業種からCMのオファーがあり有名ブランドのアンバサダーになり、目が覚めた瞬間からベッドで目を閉じるまで、一秒も自分の時間はなくなった。
引きずられるようにあらゆる場所で写真撮影をし、インタビューを受け、ドラマの撮影、新作映画の顔合わせ、スポンサーへの挨拶、新曲の収録、今日何をしたかも覚えていない日々が続く。
いつか有名になりたいといつも思っていた、誰からも愛されるアイドルに憧れていた、演技もダンスもボイトレも人の倍やった。
何をやっても楽しかった、夢を叶えるためなら苦しいことも辛いこともなかった。
新作ドラマのオーディションを受けたのは、たまたま見つけた募集広告が目に入ったからだった、だがドラマのストーリーを読み込むほどこの役は絶対に欲しいと思った。
この役をやれるのは自分しかいない、適役なのも自分だけ………そう思ったらもう止められなかった。
書類審査に落ちても監督に直談判した、自分の考え、役の演じ方、人となりを力説した、やれるのは自分しかいないと熱く語った。
監督はそんな祐月に、もう一度チャンスをくれた。
衣装を着けて演技をした、読みこんだセリフは頭の中で何度も繰り返し、咀嚼し自分のモノにしていた。
そして主役の座を得た、撮影は終始順調で他のキャストとの仲も撮影スタッフともクランクインからアップまでいい作品を作ると言うコンセプトで集結した仲間と言う感じだった。
撮影が終わって、ドラマが始まるとすぐに公式ホームページには視聴者から絶賛のコメントが寄せられた。
ストーリーが進むにつれ話題となり、SNSでも週刊誌や情報誌でも話題になった。
ドラマが終わってみれば、世の中が一転したように人気者になっていた。
何処へ行ってもファンが押し寄せ、一挙手一投足が話題になり、無断で撮られた写真がネットをにぎわせていた。
一瞬の油断も気を抜く隙もなく、常に緊張の連続だった。
歌っても踊っても演技をしても、心が躍ることは無く少しも楽しくなかった。
好きなダンスも身体が重く、スチール撮影の笑顔も不自然な顔になってしまう。
こんな毎日が嫌だった、それでも嫌とは言えない………
息の詰まるような毎日、それでも笑わなければならない毎日が続いた。
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