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出会い
後ろを振り返ると大きな男物の傘を持った男性がいた、おしゃれな傘でもビニール傘でもなく、今時あまり見かけない頑丈そうな黒い傘だった。
「大丈夫ですか?」
「・・・・・大丈夫です」
「何言ってるんですか、びしょ濡れじゃ無いですか!風邪ひきますよ!行きましょう!」
強引に背中を押され、門の中へ入る。
玄関までの飛び石を小さく並んだ灯りが照らした。
ドアの横に傘を置くと鍵を取り出して扉を開けた。
中に入ると濡れたまま風呂場へ案内され、濡れた服を脱ぐように言うと、代わりにバスローブを渡たされた。
着替える間にバスタブに湯を張ってくれる。
知らない人の家で風呂に入るなど、考えてもいなかった。
それでもなんの躊躇もなく、服を脱ぎ温かな湯に身体をつけると、指の先まで冷え切った身体がほっこりと温まっていった。
顔を洗い髪も洗って、身体を洗う頃にはさっきの悲しい気持ちまで、綺麗さっぱり消えていた。
風呂から出ると、未開封の下着と洗いざらしのスェットが上下置いてあった。
「ありがとうございました。温まりました」
「お腹空いてませんか?うどん作りましたけど、召しあがります?」
「はい、頂きます」
出汁の匂いにお腹の虫が鳴いた、そういえばお昼食べたきりだった。
温かなうどんが美味しかった、出汁まで全部飲み干すと彼が笑って見ていた。
「美味しかったです。ほんとにありがとうございます」
「良かった」
「僕、宝生 祐月と言います。」
「私は桐谷 乙哉です」
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