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俺だけど
名前を告げても顔を見ても、何の反応も無い。
この人は俺を知らないのか………
俺の事を知らない人がいる、それが不思議と嬉しかった。
「ソファでよかったら、泊まってって良いですよ。私は2階で休みますから・・・・・まだ、雨も降ってますし。」
「でも・・・・・」
「遠慮はいりません、どうせ私1人ですから」
「すいません、お言葉に甘えさせていただきます」
彼は毛布を渡すと二階へ行ってしまった。
不思議だった、自分は人見知りな方だと思っていた。
知らない人に話しかける事も気楽に笑いかけることも出来ず、むしろそんな態度を取られる事を嫌悪していた。
愛想がないと言われた事も何度もあった、そんな自分が知らない人の家でシャワーを借り食事をして、挙句に「泊まっていい」という言葉に甘えた。
これまでの自分では考えられなかった。
外は激しい雨が降っていた、ソファに横になって毛布をかけるとすぐに眠たくなった。
翌朝窓からの明るい日差しで目が覚めた、昨日の雨が嘘のように晴れていた。キッチンからいい香りが漂てくる、リビングを出るとキッチンに彼が立っていた。
「おはようございます」
「おはよう!よく眠れました?」
「はい!」
「朝食作りましたから、顔洗って。」
「はい」
洗面所へ行って顔を洗って歯磨きをする、新しい物が用意されていた。
「昨夜は本当にありがとうございました。助かりました」
「あんなにびしょ濡れで歩いてたら誰だってほっとけませんよ」
「………」
「昨日の服なんですが、まだ濡れてましたから袋に入れてあります。
私は仕事がありますので30分ほどしたら出ますけど、私のでよかったら服お貸しします」
「この服をお借りしていですか?・・・・・必ずお返しします」
「それですか?他の服に着替えなくて大丈夫ですか?」
「大丈夫です、家はすぐ近くだと思います・・・」
「・・・・思いますって・・・」
「引っ越してきたばかりで夜はよくわからなくて、迷ってしまいました………」
「そうだったんですか、この辺は似たような家ばかりですから、夜はわかりにくいかもしれませんね・・・」
そう言って彼は片づけを終えるとスーツに着替えて一緒に家を出た、外に出ると遠くにマンションが見えていた。
彼と並んで駅まで歩いた。
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