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切望
休みの日はもちろん仕事が早く終わった日や、時間の余裕ができる度に彼の家を訪ねた。
だがあれから何度訪ねても彼はいなかった、早朝行っても夜間行っても彼に逢う事は出来ず、借りた服を口実に彼に逢うと言う目論見は叶えられなかった・・・・・
祐月の仕事は今や多岐にわたっている、今夜はホテルで高級ブランドの新作発表会に招かれていた。
仕事とはいえ、好きでもないブランドの服を着せられ、カメラの前で笑う・・・・一番苦手な仕事だった。
写真撮影とインタビューを終え、一階のロビーでマネージャーを待っていた。
その時、彼がいた………
桐谷 乙哉・・・・・あの雨の日からすでに3か月が経っていた、だが彼の顔を忘れたことはなかった・・・・何度となく彼の家を訪ね、もう一度逢いたいと懇願した。
やっと見つけた・・・・
急いで彼の後ろ姿を追いかけた、スーツを着た男性2,3人と一緒にエレベーターへ向かっていた。
到着したエレベーターに乙哉が乗り込むと同時に、祐月も滑り込むように中へ入った。
後ろを振り向けば彼が居る・・・・分かってはいても振り返れない。
到着階のボタンは最上階になっていた、それまでに何とか………
だがどうしても振り向けないまま最上階へ到着した、佑月が降りその後乙哉と数人が降りた・・・・・
今しかチャンスはない………
「あの‥桐谷さん・・・」
「・・・・ん?・・・・・・・・・?」
「・・・・こんばんわ・・・覚えてますか?・・・」
「・・・・宝生 祐月・・・・?」
「・・・・はい・・・何回も家に行きました・・・
お借りした服を返しに・・・・」
「あぁ~~ゴメン・・・・あれからあの家には帰ってなくて・・・・」
「あのー時間あったら話せませんか?」
「うん、ちょっと待って・・・」
乙哉はレストランへ入ると、しばらくして出てきた。
祐月と二人、同じフロアのカフェへ向かった。
乙哉はあれから彼のことがずっと気になっていた・・・・
だが今夜逢った彼は、あの日とは見違えるような雰囲気と美貌の青年になっていた。
席に着いて目の前にいる彼を見つめた。
華やかな笑顔の祐月。
「あの時はありがとうございました、逢えてよかった・・・何回も家に行ったんです」
「そうか、ごめんな」
「服返そうと思って・・・・」
「わざわざ持ってきてくれたんだ・・・それにしても今夜の君は素敵だね」
「仕事です」
「そうなんだ、モデルさん?」
「あぁ~そんな感じです」
「あなたも素敵です」
「ありがとう。私も仕事なんだ」
「よかったら近いうちに逢えませんか・・・?」
「いいよ・・・連絡先交換する?」
「はい」
「風邪ひかなかった?・・・・マンションには帰れたの?」
「はい。無事に帰れました‥」
祐月はマンションへ帰ってからずっと桐谷 乙哉の事を考えていた・・・・・
やっと逢えた・・・・彼に逢えたことが嬉しくてたまらなかった。
あの日からずっと逢いたかった・・・・何度となくあの家に行ったのも逢いたかったから・・・・
今夜の彼は素敵だった、スーツが似合っていて大人の雰囲気だった・・・
思い出すとにやけてしまう・・・・
連絡先も交換した、今度からは逢いたくなったらいつでも逢える・・・・
まずは借りた服を返さないと・・・・
電話するかメールにするか・・・・どうしても勇気が出ない………その時着信音が鳴った・・・・
見ると乙哉からの電話だった・・・・
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