最後の撮影

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最後の撮影

ドラマの撮影も最終段階に入り、最後の台本が届いた。 ラストは好評の結果を受けてハッピーエンドと決まった。 ただBLではなくあくまでもブロマンスという事でキスはなく熱い抱擁と書かれていた。 宗輔とは相性も呼吸もぴったりと合い、セリフはこぼれるように自然に溢れ出した。 ドラマの人気が上がると、それに呼応するように取材が殺到した。 勿論二人そろっての出演で、どんな時も仲の良さをアピールするように、手を触れ身体を寄せ合い、思わせぶりに見つめ合う。 全てがシナリオに沿った演出だ、それでもフアンにとっては堪らなく魅力的に映る。 タイアップ企業からのお揃いのアクセサリーを身に着け、同じブランドの服を着た。 自分の着たジャケットを次の日は宗輔が着る、それを目ざとく見つけたファンが指摘する。 靴もシャツも全てが与えられたアイテムを身に着け、まるで同じ服を共有している様にふるまう。 そうすることでドラマはさらに盛り上がり、二人の雰囲気に酔いしれる。 ドラマの成功を祝して様々な企業から、花やプレゼントが届き新しい仕事へのオファーが来る。 俳優やタレントにとって人気はいつまで続くかわからない不安を常に秘めている。 今の人気がいつまで続くか、いつ忘れられるかという不安に苛まれ、強いストレスとなる。 宗輔は最後に言った。 「祐月!決してファンを侮るな、何かあればすぐに背を向ける存在だと覚えておくんだ。常に緊張しておく必要はないが、油断は禁物だ。 君と一緒に仕事ができて楽しかった。ありがとう凛太朗!」 「宗輔さん、こちらこそ本当にお世話になりました、いい勉強をさせていただきました」 僕にとって貴重な体験だった、二本目のドラマは最高の結果で終了することができた。これも全部僕のわがままを許してくれた乙哉のおかげだ。 3ヶ月もの間、別々に暮らすという無茶な申し出を何も言わずに受け入れてくれた乙哉! 乙哉から一度も連絡はなかった、この3ヶ月自分を信じ、僕の自由にさせてくれた。 相手役の男を本気で好きになると言った僕に、必ず帰って来てと言った乙哉、役の為とはいえ自分はなんと無茶な事を言ったのだろう! 寂しい想いをさせた恋人をしっかりと抱きしめたい! 僕はすぐに乙哉に電話を入れた、3か月ぶりの乙哉の声を聞くために。 呼び出しの音が鳴っている、電話を耳に置いたまま自宅へ帰るべく車に乗った。 後30分もすれば愛する恋人をこの手に抱きしめる。 「祐月?もしもし終わった?」 「乙哉!終わったよ、もうすぐ逢える」 「祐月早く帰って来て」 玄関のドアが開く音がした、急いで玄関へ向かう! ドアの前に祐月が居た、逢いたくてたまらなかった祐月! 祐月の匂いを祐月の体温を感じたい、両手を広げた祐月の胸に飛び込んだ。 祐月に抱きしめられて、やっと実感する。 帰って来た、自分の元へ約束通り帰って来た。 祐月の温かさを感じながら、溢れ出す涙を祐月の胸に埋めた。 「乙哉!ごめんな、寂しい想いをさせて・・・・・信じてくれてありがとう」 「祐月!おかえり」 やっと二人だけの時間が戻って来た、今夜はきっと眠れない。
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