乳首ノスタルジー

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「ちょっと、じゃまなんだけど」  入学初日、真新しい高校生活に不安と期待を膨らませ、緊張の面持ちで席に着いていた私に、突如不躾な言葉を投げかけてきたのが琴音だった。  戸惑う私に、彼女は誤った主張を繰り返した。 「だからそこ、私の席なんだけど」  アイラインとマスカラでくっきり縁取られた主張の強い瞳に睨まれて、私はすっかり縮み上がった。  琴音は、いわゆるギャルだった。隙なくセットされた巻き髪から覗く耳たぶには大きなフープイヤリングがぶら下がっていて、制服のスカートは少し屈んだだけでパンツが見えそうなくらい短い。すぐにでも逃げ出したかったけれど、どうしたってそこは、クラスで最も出席番号が若い私の席だった。  恐る恐る黒板に貼られた座席表を指差すと、意外にも彼女は素直にそちらを振り返った。視力が弱いのか、黒板すれすれの距離まで顔を近付ける。少しの間を置いて、突然明るい声が弾けた。 「ごめんごめん勘違い! 私の席、あんたのうしろだった!」  相川 琴美(あいかわ ことみ)相澤 琴音(あいざわ ことね)。  私たちの名前はよく似ていた。 「あはははは!」   豪快に笑いながら、琴音は私の肩をバシバシと叩いた。  琴音は、万華鏡のような女の子だった。すぐに機嫌を損ねるけれど、次の瞬間には屈託のない笑顔を見せている。そんな風だったから、顔色を伺う暇もなくて、私は自然と心を開くことができたのだ。  琴音があまりにも可笑しそうに笑うから、いつの間にか緊張も解け、一緒になって笑い転げた。あの瞬間から、きっと私たちは友達だった。  名前以外にも、私たちには似ているところが多かった。お互いに一人っ子だったし、自分の家が嫌いだった。大嫌いだった。琴音の家には過干渉で厳し過ぎる両親がいて、私の家には酒浸りの父親と暗い顔をした母親がいた。
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