みつめる桜(2013年春)

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☆☆ 「えっセンセ⁈ ちょっと待って」  歩き去ろうとする青瀬を、幽玄は慌てて呼び止めた。普段なら、人付き合いは苦手でもお化けは平気な(だからこそ当資料館で働けている)青瀬が、お化けにこんな冷たいのは珍しかった。  センセは止まってくれたが、背を向けたままだ。  お化け少女の、桜色の唇が大きく開いた。 「なぜですか⁉︎」  目も大きく開いた。一つ、二つ、三つ、四つ……。 「ひゃああああああ⁈」  美里が悲鳴を上げた。  少女の髪の間から、目が。いくつも、いくつも開かれる。  沢山の目が、青瀬の背中を一心に見つめた。 「センセ、彼女は」 「知ってる、桜の精だろ。その大きさからすると、駐車場んとこに植えられた博物館姉妹提携記念植樹じゃないの」  幽玄は天を仰いだ。この人いたら俺いらないだろ……と凹む気持ちを振り払う。時間がない。 「その通りです。彼女が貴方と会ってみたいと」 「悪いけど」  幽玄はふらふらと青瀬を追った。普段はフィジカルモンスターな霊能者だが、術中は心身のチカラが削られる。 「あのセンセ」 「僕はお化けは平気だけど」  青瀬は幽玄を見上げた。 「沢山の目でジロジロ見られるのは嫌なんだよ。昔、桜並木で怯える様を笑われて以来、咲いてる桜には近づくのも嫌だ」 「……」  幽玄は悩んだ。センセは、イヤなものは例え理不尽と分かっていても受け入れることができない。震災後に思い知っている。 「あのっ」  桜の精の声に幽玄が振り向き「センセ、見ても大丈夫ですよ」と促した。青瀬もしぶしぶ振り向く。  彼女は、美里の膝掛けを頭からかぶり、目と髪を隠していた。顔にわずか見える髪には、目が二つだけ。 「受付の方にお借りしました、コレならいかがでしょうか!」
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