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☆
好奇心いっぱいに見下ろし笑う目、目、目。
あの恐ろしい季節が、今年もやってくる。
少し古めの建物が、雨風でガタガタ鳴る。
「天気悪いですねー」
「花粉をどっかやってくれるなら助かるんだけど」
「風で逆に舞いまくってたりして」
「……勘弁してほしいな」
ここは一会町立郷土資料館。受付嬢の美里に、学芸員の青瀬がウンザリした声を上げた。この町に来てからスギ花粉症になった彼は、いまだ高校生に間違われる童顔を、眼鏡とマスクで完全防御している。
資料館の自動ドアが開き、長身の痩せた青年が風と共に入ってきた。雨合羽を脱いで、乱れた明るい色の髪を軽く直す。
「こんにちは、センセ今いいですか?」
榊幽玄。長めの茶髪にスーツ姿だが、れっきとした霊能者だ。何かとお化けに縁のある当資料館と契約して、守ってくれている。
「やあ、こんにちは。なんだい?」
「そのマスクと眼鏡いま外してもらう事って、できます?」
「できるけど……なぜだい?」
青瀬は不審げに聞いた。いまさら自分の顔を見たがるとも思えない。
「実は、センセに会いたいって子がいまして」
幽玄は白く長い蛇のようなものを掌から出し、虚空に流した。彼は、自身に取り憑いている疳の虫を使役して、霊を実体化することができる。
何もいないはずの空間から、少女が現れた。
横に縞が入った渋めの茶の着物を着て、緑がかった長い髪で顔が半分隠れている。僅かに見える桜色の唇は、緊張で引き締められていた。
青瀬が言った。
「悪いけど帰ってもらって」
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