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「その後の打ち上げでもさ『体調悪いんだから無理すんなよ』とか言ってきてさ…」
確かに…あの顔で変に優しくされたらギャップ差でコロッといくかもしれないなぁ、でもなぁ…私の場合はそーゆーの胸狙いか?って思っちゃうからホントに優しい人なのか解んないんだよなぁ…。
「でも小百合、係長と仲悪いじゃん」
係長だけではなく、課の男性社員にもズバズバ意見を言ってる小百合をカッコいいと思ってたけど考えたら係長の事が好きならもう少し柔らかい態度の方が良いと思うんだけど。
小百合は空になったグラスを眺めながら口を閉じてしまった。
「…どした小百合?ほらハイボール来たよ?」
「…聞いちゃったんだよね…」
「座敷だったんだけどさ、トイレに行こうとしたけど、ハンカチ忘れてたんで直ぐに取りに戻ろうとしたら聞こえてきたんだよね…」
一年前、新企画のプレゼンが上手く行き、参加メンバーでの打ち上げで集まった時だ。
「長谷部、お前クライミングって興味あるか?」
「何だよ突然」
「小百合ちゃんだよ、背ぇ高いし殆ど崖じゃん」
「そーっすよねー顔は良いんだからもったいないっすよねー」
ふすまの向こうからは男性社員達の笑い声と女性社員の非難の声が聞こえる、ハンカチを取りに戻った小百合は、話題の中心が自分の胸だと瞬時に悟った。
ガララッ!
あれだけ声を出してたのにふすまが空いた瞬間全員が固まった、有線の陽気なBGMが流れる中、くるりと部屋を見渡した、年下だからと下座の席で良かった、ヒールを履いたまま手を伸ばしても届く。
「ハンカチ…忘れたんで」
「瀬口…?」
「…帰ります」
長谷部の困った様な顔が、一年経っても忘れられない…。
「なにそれ酷い!」
「え?ちょっと待ってよプレゼンの打ち上げって言ったら参加してる男子、全員ウチの課じゃん!?何で言ってくれないのよ?」
「なぎさに相談したら何か変わる?」
「え?」
「私の胸が大っきくなる?男が全員貧乳好きになる?長谷部が…」
「何も変らないよ…」
「なぎさとわたしの胸を見比べて何やかんや言われるだけじゃん…ちらっと胸見られただけで嫌な思いしてんでしょ、これ以上嫌な思いさせられないよ」
「小百合ずるくない?一人でカッコつけてさ…」
「言ったでしょ…私は仕事で頑張るしか無いって、これまでどーり仕事して、長谷部とガミガミ言い合って、それで良いんだよ」
「小百合…聞きたいんだけどさ」
「なに?」
「何で係長があたしを狙ってるって言った?」
「…こんな貧乳より、なぎさと付き合ったほうが趣味は崖登りなんですか?とか聞かれないでしょ」
「え?係長が笑われないように?嘘でしょ?小百合ってそんな乙女だったの?」
まさか、サバサバ体育会系オタクでスカッと爽やか姉御だと思っていた小百合が、好きって言っても無いのに未練たらたらで、泣きべそかきながら男の事を思ってる乙女だったなんて。
「小百合さん、悪いけどそれは全然意味無いわよ、なぎささんとその係長が付き合ったら趣味は山登りですか?って聞かれるだけじゃない?」
話に入ってきた三崎さんの言葉にしばらく絶句したけど、小百合と二人で吹き出してしまった。
「三崎さんひど〜い」
笑ったあとの小百合は何だかスッキリとした顔になっていた。
「結局男が馬鹿だって事ね、三崎さんもこんな冗談言うんですね」
「なぎささん、思い出したわ」
「え?」
「全力、わたし達バーテンダーはお店に来たお客さんが笑顔で帰れるように全力を尽くしてるの、冗談くらい言うわよ」
「ほらみろなぎさ、三崎さんも思ってたでしょ?デカいって」
「大きいとは思うけどもっと大っきい人とかも居ますからね〜、でも小百合さん?いくら男が馬鹿みたいでも胸の大きさだけで人を好きにはならないわよ」
「それは分かってるつもりなんですけどね…」
「小百合…係長に好きって言わないの?」
「言わないよ、言えるわけ無いでしょ今更、それに長谷部彼女居るみたいだし」
「…そだね」
何かモヤモヤする、小百合は私なんかより仕事が出来て、男の人にもガンガン意見言ってて強い女の子って勝手に思ってた自分が何だか恥ずかしい、弱い部分もあってそれを見せない様に頑張ってただけなのだ。
「ちょっ何?なぎさ」
気がついたら席を立って小百合を抱きしめていた。
「偉い偉い」
「何だよそれ」
「何でもない」
小百合は体をちょっとズラして私の方に体重を預けてきた。
「なるほどね〜…分かるような気がするわ」
「何が?」
「男がおっぱいを好きな理由」
「ちょっ…おっさんか!」
二人でアハハと笑って会計を済ませる、街には色んな男の人が歩いてたけど、多分私の友人よりカッコいい人は居ないだろう。
でも別に百合って訳じゃないからな!
おわり
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