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「これ、小説投稿サイトのコンテスト」
カバンの中からスマホを取り出し小説投稿サイトの『月間コンテスト』のページを開く、今月のお題は『全力』
「あんた、まさかこれを考えててコピーミスしようとした訳?呆れる」
お替わりしたハイボールのジョッキ片手に、スマホを受け取った小百合は言葉通りの呆れ顔だ。
「面目ない、でも私今まで全力で何かしたっけ?って考えたらこのお題で書けないなぁって思ってさ」
「そんなもんその例題で書けば良いでしょ、ほらこれ良さそうじゃん『落ちこぼれと言われた俺が全力を出した結果、魔法学園が大変な事に…』いわゆるなろう系でしょ?」
ほらね『辞めれば?』なんて言ってても、ちゃんと相談に乗ってくれる、ジョッキを両手で抱えながら舐めるようにハイボールを飲んでいる私の前にスマホを置いた。
「なろう系とはちょっと違うと思うけど、私ファンタジーとかあまり見ないし書けないよ、でも例題で書くのもアリかなぁ…」
そう思って他の例題も見てみたけど、ちょっとハードル高いかも…。
「つーか仕事でもないのに何をしてんだか…まぁ気持ちは解らないでも無いけどねぇ…」
「そ~なのよ仕事じゃないけど何か頑張りたいのよ小百合は?漫画読むだけ?」
ジョッキを置き唐揚げに手を付ける、あーやっぱ旨い。
「私はそーゆーの無理です、絵も話も描けない私は消費豚がお似合いなのよ」
「描けない豚はただの豚だぜぃ」
チャンスがあれば好きなアニメのセリフをもじって言いたいけど、今のところ言える相手は小百合くらいだ。
「私は豚じゃねぇ」
「自分で言ったんじゃん、あーでも他の例題も難しいなぁ」
「そーゆー時は書くのをやめる、散歩したり 景色を見たり… 昼寝したり、何もしない、そのうちに急に書きたくなるんだよ」
「それ…」
知ってる人同士しか分からないけど別々の人生を歩んできたのに、同じモノを観てて同じ所で感動したんだなぁってお互い顔を見合わせてニヤリと笑う。
「そこはさぁ、まず『そういう時はジタバタするしかないよ。書いて、書いて、書きまくる』じゃないの?」
「そーゆー事は仕事で全力出してから言って〜」
「ハッハッハッこりゃ一本取られましたな」
自分のおデコをペシッと叩きながら舌を出す、話が解かると言うか相手の事を自分の分身じゃなかろうか?と時々思う、シンクロ率がかなり高い。
「そういえば係長って似てるよね?」
「うぇ…」
この反応は、やっぱり小百合も内心思ってたのね『火神』君に似てるって。
「そ~なんだよ、実写映画のオファー待ちか?っつーくらい似てんだよ」
そう言いながらジョッキを煽る、あら、今日ちょっとペース速いよ…。
「え〜なんで?」
「いやいやいや思ってましたよ似てるって、入社した時から思ってましたよ、覚えてる?入社してすぐの歓迎会」
「いやあんまり覚えてな…」
「私、席が隣だったんだよアイツと!」
ジョッキをドンッ!と置きながら勢いよく被せてきた、あれ?小百合酔ってる?アイツとか言ってるし。
「そりゃ〜さ最初の頃は思いましたよ『あっこの人火神大我』そっくり超絶ラッキー!』って、でも私からさぁ『黒子のバスケの火神大我』に似てますねって言える?言えね〜よ」
「だけどさ、座った時の最初のセリフにびっくりしたね『俺さぁ黒子のバスケの火神大我に似てるって良く言われるんだよねー』って、いや聞いてねーし!」
まるで落語でも演じているかのように、小百合は一人二役いや、過去の自分と現在の自分も分けてるから一人三役の身のこなしで係長との出会いのシーンを再現してくれた、モノマネも入って中々面白い「小百合、黒子のバスケ好きなら良いじゃん」
「嫌だよ『あ、この人漫画のキャラに似てるって言われて、更に寄せてる人なんだ〜キモッ』ってテンションだだ下がりですわ」
背もたれに寄りかかりその時の事すら嫌そうにハァっと一息つく小百合を黙って見ていた。
「私はねぇ…自己紹介の時に正直に趣味は漫画を読む事ですって言うつもりだったのよ?先にそんな事言われたらさぁ言えないじゃん?」
「でも趣味漫画ですの後に言われてたらどうしたの?」
「あっ…そうかそっちの方が地獄か、多分『あっじゃあ黒子のバスケって知ってるでしょ?』とか言われてドヤ顔されてたな」
「え?ちょっとまって」
軽く聞き流してしまったけど何か重要な事を言われた気がする、係長の口から『黒子のバスケ』って単語が出た?
「ひょっとして係長ってオタク?」
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