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元日は、まだ暮れるのが早い。
夕方前には陽も弱まり、角度を付けて木造アパートの階段を登る僕等を訝しげに照らしていた。
拓真の部屋は二階にあって、カンカンと無駄に鳴る階段や通路はところどころ錆びている。
「行こうか」
拓真の部屋の前で、志帆を見ずに話した。
視界の隅で頷く素振りは見えたが、冬らしい控えめな西陽を後ろから受けている彼女の表情までは、僕には分からなかった。
詳らかにされないように。
ゆっくり、ゆっくり、夕闇へ変わっていく。
「お、来たな」
ぎい、と音の鳴る玄関のドアを開けると、すぐ前のソファに座る拓真と渚さんが僕等を迎えた。
新年の挨拶を交わしながらも、目の前で渚さんの肩に手を回している拓真の様子に、どこか拍子抜けする。
そうか、仲直りできたんだな。
拓真の一時の心の荒みに、僕は振り回されただけなのかな。
「志帆ちゃん、お疲れ」
「渚さん、お疲れ様です。お店の外は久し振りで、何か変な感じしますね」
拓真の脇に小柄な身体を預けながら、渚さんは志帆に笑いかけた。
その返しで志帆も渚さんに挨拶をする。
バイト先でも仲は良いらしいが、小さい身体でエネルギッシュに働く渚さんに憧れを持っていると言っていた。
「少しですけど、今日もビールとか持ってきた、ん、ですけど……」
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