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 新年会という事だったので飲み物くらいはと思い、ビールは途中で買ってきた。  志帆は、クリスマスに余ってバイト先から貰っていたという、密栓の炭酸飲料を家から持ってきていた。  しかし、ソファの前の小さなテーブルに、グラスや料理の類いは何一つ乗っていなかった。 「そういうの、いいんだよ」 「は?」  キッチンのシンク台側の小窓から射した夕陽が、座って微笑む拓真の顔を照らす。  白いシャツのボタンは上三つが外れていて、肌けた胸元を輝かせた。  少しの沈黙の後、とりあえず僕等はテーブルの上に持ってきた飲み物を置き、着てきたコート類を脱ぐ。  隣室に繋がる鴨居のハンガーにそれを掛けた時、隣りの畳敷きの寝室に、マットレスと枕が二つ置かれているのが見えた。  はかりかねた。  僕は動けなかった。  後ろの方で息を飲むのが聞こえた。  焦るように平静を繕った志帆が、薄桃色のセーターの腕を捲りながら、シンク横の食器棚からグラスを取り出しに向かう。 「だからいいんだって」  拓真は不意に立ち上がり、渚さんをソファに残して志帆の手首を取った。 「……」 「いいんだろ?」  問う先が曖昧だ。  拓真は志帆しか見ていない。  でもその声は、部屋にいる全員に響く声量だった。 「おい、拓真」  冗談だよな、とか、本気なのか、という言葉が喉元を往復する。  炭酸を一気に流し込んだ後のような、そんな苦しさに似ていた。 「いいんだよな、志帆ちゃん」 「……」  今度は志帆だけに問い掛ける。  髪を下ろしている横顔はその表情を窺い知れないが、窓から差し込む西陽が黒髪を透かして、シルエットだけで志帆の表情を詳らかにしている。  志帆が、小さく、頷いた。  
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