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「……だから、いきなり何だっつーの。分かってるよそんなこと」 「いいやお前は分かってないね。五年も身の丈に合わない宝石を側に置いて、それに慣れきっちまってる」 「失礼な奴だな。志帆の見た目に負けないように、俺だって自分を磨いて……」 「志帆ちゃんが可愛いのは、見た目だけじゃないぜ?」  拓真が被せてきた。  それも分かってるよ。口に出すと大きな声になりそうで、その言葉はぐっと飲み込んだ。  志帆は極めて「いい子」だった。  見た目は清楚というか良い意味で地味で、他人の悪口なんて言わないし、いつも小さく笑っている子だった。高校時代から、周りに志帆を悪く言う人はいなかった。  生まれつき色素が薄くて長めの髪は滑らかで、細い目をもっと細めて微笑む表情は、いつも僕を穏やかな気持ちにさせた。  平均よりも背が高くスタイルも良い志帆は昔からよく目立ったが、前に出たがらないその性格は比較的狭い交友関係に存在を留めていて、そのせいで周りが志帆を遠目から神格化さえしていた。  
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