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 高三で僕と付き合い始めた時、校内はちょっとした騒ぎになった。図書館が塒のような、ずっと空気だった僕が、あの志帆「様」の恋人になった。一部の同類は歓喜に沸き、その他大部分は驚きと落胆に包まれた。  それでも志帆は、周りの事は何も気に留めなかった。登下校も放課後の図書館も、ずっと僕と一緒にいてくれた。友達から僕の事は色々言われたらしいが、志帆は僕と静かに過ごす時間だけを大切にしてくれた。  穏やかに、慎ましやかに。  僕と志帆は、上京して東京に来てからも、ずっと一緒だった。 「志帆ちゃんはお前に満足してんのかねえ……」  二杯目に選んだブレンドにミルクを入れながら、拓真がぼそり呟いた。マーブル状に広がる乳白色を混ぜずに、その表面を眺める。 「お前と志帆ちゃんは、色が違いすぎる。掻き混ぜないと、色は変わらないぞ?」 「何が言いたいんだよ。ミルク入れ過ぎ。さっさとスプーンで掻き混ぜればいい」  僕はスプーンを突っ込み、くるくると拓真のカップの縁の円周に沿って丸を描いた。カフェオレくらいに色を薄めた飲み物は、拓真が僕を見る視線の前で力無く湯気を立てた。 「でもこれは、もう志帆ちゃんじゃない」  
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