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肩の力が抜ける。
普段は気持ちの良い親友だが、拓真は感情の浮き沈みが態度に出やすく、それが事の重大さと反比例するタイプだった。
前に「ちょっとだけ悩んでる」と微笑みながら僕に相談してきた時は、「学費が払えず退学寸前だ」という大問題で肝を冷やした。その時は、僕の仕送りを分けて事なきを得たが、今日はあからさまに苛々と八つ当たりをしているのだから、多分大した悩みでもないのだろう。
「どうしたんだよ。何があった?」
「……倦怠期、かな」
「え?」
「それと将来の不安とか」
視線を窓の外へ向けて、トーンを抑えて呟く。あからさまな子供っぽい仕草だが、見た目の良い拓真の姿につい見惚れてしまった。
「渚さんと喧嘩した?」
「お前聞いてた? 喧嘩じゃなくて倦怠期。渚も機嫌悪いっていうか、つまらなそうにしてたりするんだ」
「拓真が就職決めないからじゃない?」
「多分な。将来の不安ってのはそれ」
渚さんは、二つ歳上で拓真の恋人だった。
バイト先の洋菓子店の娘で、よく店を手伝っていた快活な渚さんに、拓真が一目惚れしたのが始まりだった。何度も渚さんに告白して玉砕し続けた拓真だったが、僕らが二年、渚さんが卒業するタイミングで付き合い始めた。
「そっか。渚さんが就職せずに店を手伝ってるのも、きっと拓真の卒業を待っているのだろうしね」
「そう。でも内定をまだ取れてないだけの事だぜ」
「渚さんにとって、きっと大問題なんだよ」
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