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テーブルをくっつけて長ーくした席に、小綺麗な格好をした20人くらいの男女がランダムに座っている。
こ、この状況はもしや、合コン…?いや、婚活パーティー?
よくわかんない。どっちでもいいけどっ!
「あの、私、みせいね…うぐッ!」
テーブルの下で麗華さんに思い切り脚を蹴られた。
ヒールは痛いよっ……!
「黙ってなさい!モテるチャンスよ」
あたしが涙目になっていると、隣の席の大学生風の男が話しかけて来た。
「君、静かだね。俺あんまりうるさい子好きじゃないんだ。あっちで二人で語らない?」
「い、いえ、遠慮します」
その場の舐めるような、値踏みするような視線が居心地悪く、あたしは席を立った。
トイレから出て来ると、さっきの大学生風男が外に待っていた。
しつこっ!
「もう帰りますんで…」
あたしが脇を通り過ぎて帰ろうとすると、腕を掴まれた。
「まぁまぁ、そう言わないで。まだ始まったばかりだしさ。飲んでる?カルーアとかならいけるんじゃない?コーヒー牛乳だよ。緊張が解けるよ」
差し出されたグラスを口に当てられて、思わずごくっと飲んでしまった!
あれ、ほんとにコーヒー牛乳だ。美味し!
そしてなんだかちょっと楽しくなってきたかも。
「よしよし、良い子だね。もう一杯いっとく?」
あたしの頭を大学生風男が触ろうとしたその時、横からすごい勢いでその手が振り払われた。
振り返ると、貴兄だった。
大学生風男を目で殺しそうな勢いで睨みつけ、胸倉を掴む。
「中学生に酒を飲ませていいと思ってるんですか?」
その眼光の鋭さに男性は完全にビビっている。
「ちゅ、中学生?!知らなかったんスよ!マジ勘弁して下さいよ!」
貴兄は大学生風男の胸元を掴んで、低い声で静かに言った。
「この子はこの僕が手塩にかけて育ててきた宝です。そんじょそこらの男に触れさせるわけにはいきません。速やかに消えて頂けますか?」
貴兄が言い終えるか言い終えないかの内に男は
「ごめんなさいぃっ」
と叫んで逃げ出した。
「フン、100年早い」
その後ろ姿を見送って、貴兄が呟く。
それから床にぺったり座り込んでいる私の前にしゃがんで、顔を覗き込んだ。
「琴理、どうもない?」
あたしはコックリ頷く。
でも、知らない場所に慣れない格好で連れてこられて、自分で思っていたより緊張していたみたいだ。
貴兄の顔を見たらホッとして、同時に泣きそうになった。
泣き顔を見られないように、あたしは俯く。
その頭の上に、暖かい手が置かれた。
それだけであたしはすごく安心する。
小さい頃から貴兄は、泣いているあたしの頭に何度手を置いてくれただろう。
貴兄はしばらくそうしてあたしが落ち着くのを待っていてくれた。
あたしの涙が引っ込んだのを確かめて、貴兄は手を差し出した。
「帰ろう、琴理」
貴兄の大きな力強い手に捕まって、あたしは立ち上がる。
そして小さい頃みたいにそのまま手を繋いで家に帰った。
途中、私は高垣麗華という女性にあの店に連れて行かれた経緯を話した。
話を聞き終わると、貴兄は無表情で「わかった」とだけ言った。
「でもそう言えば、貴兄はなんであんなにタイミングよくあの場に現れたの?」
あたしがふと、疑問になってきいてみると、貴兄は、
「僕は行きがかり上、探偵でもあるようなのでそこら辺は…」
と言って言葉を濁した。
もしかして、あたしのスマホの中にGPSアプリでも仕込まれてたりする??
貴兄だったらやりかねない…。
深く考えると冷や汗が出るので、その夜は貴兄が作った晩ごはんを食べてさっさと寝ました!
その後貴兄がどう動いたのかは分からないけど、麗華さんがカフェに現れることは二度となかったのでした。
〈完〉
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