柏原淑子

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 あの日、私は里穂の家に一泊することになった。おじさんと目を合わせることができなかった。おじさんの前に来ると、私は本来の私ではなくなる。  そして、あの忌まわしい火災が起きた。  私は二階の里穂の祖父の部屋で寝ていた。畳の香りがする六畳間で、棚に日本人形が載っていた。里穂の祖父は三年前に亡くなったと聞いた。この家は曾祖父からの代からあり、おじさんもこの家を頑なに守っていた。  確かに古い。あちこちに経年劣化が目立つ。改築や増築をすれば、もっといい家になるのに、と思う。  私はできれば、一階の里穂とその弟、健太くんが寝ている部屋でいっしょになりたかった。だけど、彼らの部屋は二人でいっぱいだ。だから、私は仕方なく、祖父の二階の部屋を借りることになった。  枕が替ったせいか、なかなか寝付けなかった。それとも、おじさんが部屋にこっそり侵入してくるのではないかという恐怖心が勝ったのか、とにかく、私の眠気は完全に吹き飛んだわけだ。  夜中の一時頃、階段をゆっくり上ってくる足音がした。私はおじさんかと 思い、身を固くした。襖がゆっくりと開き、おばさんが顔を覗かせた。おばさんだと気付いて、私はほっと胸を撫で下ろした。  おばさんは不安そうに布団から顔を覗かせている私に、にっこりと微笑んだ。 「あら、起こしちゃったかしら?」 「いいえ。さっきから眠れなくて」 「そう。でも、明日は日曜日だから、眠らなくても平気よね?」  おばさんは悪戯っ子のように舌を出して微笑んだ。私も安心して笑った。これが私が見たおばさんの最後の姿だった。
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