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上野麻由美2
あの火災のことは学校からのメールで知りました。その火災が起きた日は日曜日だったので、私は知人の男性の部屋にいました。知人の男性です。彼氏ではありません。だって、その人はゲイですから。
簡単に言ってしまえば友達です。だから、彼の部屋に泊まることに疚しさはありません。両親には秘密です。疚しさがないのに秘密にするなんておかしいかもしれません。でも、ゲイですから両親は激昂するでしょう。
まだ、正常な男性の部屋に出入りしていると言えば、両親の咎も軽くなる。でも、正常な人間なんて、本当にいるのだろうか?誰しも心に闇を抱えている。
私だって、母親の血を引いている。まともな部類に入るかどうかはわからない。少なくとも、不倫をする母親よりは私の方がマシだ。一応、私は教育者だ。生徒に後ろ指を指されることはできない。
話を火災の件に戻そう。私の担任のクラスメイトが一人、亡くなった。一人は奇跡的に生き残った。二人とも、こちらが妬いてしまうほど仲が良かった。その一人が今はいない。その現実を受け止めることに時間がかかりそうだ。
私は亡くなった乾里穂のことを思い、涙した。唯一の希望は生き残った一人、柏原淑子だ。彼女はあの火災にもかかわらず、膝を擦りむく程度の軽傷で済んだらしい。<この時はメールに詳しく記されていなかったので、私の思い込みであった>
乾里穂の家族は全員、焼死した。
私はその現場に向かうことにした。いそいそと着替えて化粧もせず、靴を履いていると、ゲイの彼がエプロン姿で私に近づいた。
「朝ごはん、食べて行かないの?」
「ごめんなさい。急用ができて。昨夜はありがとうね」
私は型通りの言葉を残して、今は無き乾里穂の家へ向かった。
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