乾太一

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乾太一

 俺は朝から部長とやりあってしまった。部長とは数年前から反りが合わなかった。サラリーマンは縦社会だ。上に異を唱えることができても、覆すことはできない。俺はその度に言いようのない敗北感を味わう。だけど、生来、曲がったことが嫌いな俺は黙ってはいられない。会社の中には保身ばかり考えて、判官びいきをするような輩はいない。だから、俺は反旗を翻す時はいつも、孤立無援だ。  部長は社内ではワンマンとして知られていた。逆らう者はいわゆる、粛清の対象になった。  部長は社内のメールを本人の許諾無しに見ることができ、業務に関して同僚などと意見を交換するようなメールを見つけると、その当人を呼び出し、俺を無視するつもりか!上にお伺い立てるのが筋だろう!と罵倒するのだ。  部長は今日もせっせと社内メールを盗み見ている。俺は皆を代表して部長に掛け合った。  メールのチェックは当人の了承を得たマークを記したメールのみ、確かめればいいのではないかと。だが、石頭の部長が首を縦に振るわけはない。  代わりに俺が皆を代表して泥を被ることになった。入社して十五年の機械メーカー。ここで骨を埋めるつもりだったが、こんな部長の下でやっていけるかどうか、自信がなくなってきた。
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