乾太一4

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乾太一4

 俺の朝は早い。営業部にいた頃とは違い、勤務先が川崎市と来ている。阿佐ヶ谷から川崎市までは二時間以上の道のりだ。俺は朝はあまり強くないので、工場に左遷が決まった時、曾祖父から引き継いだこの家を手放そうかと考えた。  だが、俺にはできなかった。なんというか、この家には先祖代々からの呪縛があり、家を売ることは魂を売ることに等しいと思う自分がいる。  おそらく家内は家を売ってもう少し、都心に近い場所にしようと言い出すに決まっている。あいつは素朴に見えて、見栄っ張りなのだ。  看護師をしていた頃の家内は、とても清楚で男を立てる女性だった。だが、こうして所帯を持ってみると、結婚後に女は変わるというのは強ち、誇張ではないと思う。  俺は社内では愛妻家で通っているが、俺は妻を女として見なくなっていた。セックスレスの夫婦なんて、昨今、珍しくはない。社内でも、その手の夫婦はメジャーな方で、世間的には市民権を得ている。  俺はたまに風俗店に行って、欲望を解放しているが、終わった瞬間、言いようのない虚しさが波のように、俺の心を覆いつくす。  その果てることのない動物的行為が人としての理性に訴えかける。乾太一、お前はそれでいいのか?  俺は工場に左遷されてから潤いというものを無くしてしまった。トランクルームに預けた金だけが俺の心の拠り所だった。  俺は最近、若い女性ばかりに目が行ってしまう。特に十代の女子高生は仕事でストレスに晒されている巷にいるOLよりも見ていて楽しい。彼女たちは純粋にお金だけを求める。それに引き換え、OLどもは金ばかりか、そこに愛を求める。つきつめれば、欲張りなのだ。
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